ウェブマガジン・のたる
書評:コミック『ペリリュ―ー楽園のゲルニカー1』
Categories: 未分類

 

著者:武田一/平塚柾緒(太平洋戦争研会) 出版社:白泉社 価格:600円+税 発行日:2016年7月29日

著者:武田一/平塚柾緒(太平洋戦争研会)
出版社:白泉社
価格:600円+税
発行日:2016年7月29日

「ペリリュー」と聞いて、何が思い浮かびますか?もしかすると、ポケモンの一種かなと考える人もいるかもしれません。「ペリリュー」とは、南太平洋に浮かぶ大小200以上の島々からなるパラオ諸島の南端、フィリピンの真東に位置する小さな島の名前です。 サンゴ礁の海に囲まれ、熱帯の豊かな森に覆われた楽園のような場所ですが、いまから73年前の1944(昭和19)年に、日米合わせて5万人の兵士が死闘を繰り広げた地であることはあまり知られていません。作者自身も、この島の存在を知ったのが2015年4月、天皇皇后の慰霊訪問をテレビで知ったことがきっかけだと言います。

『ヤングアニマル』(白泉社)2016年4号から12号に掲載されたコミックス第1巻の本作は、この場所に祖父がいたという作者がこの島で何が起きたのかについてリアルに描くことをテーマにしているとのことですが、登場人物はみな2頭身にデフォルメされているため、たとえば戦争漫画の金字塔とも言える「はだしのゲン」と比べた時に、リアリティは自ずと負けてしまいます。しかし、残酷なシーンを見た時に受けるショックを和らげる効果はあると言えそうです。

コマ画(ページ内でトリミング) Ⓒ白泉社

コマ画(ページ内でトリミング) Ⓒ白泉社

主人公の田丸一等兵は上等兵に見つからないように漫画を描くことを唯一の楽しみにしています。「日本に帰ったらここでの見聞を元に冒険漫画を描きたい」と考えて毎日を過ごしているため、洞窟堀りの作業場では、統率している根本軍曹にボケっとするなと怒鳴られ、「つるはしは銃剣!岸壁はアメリカ兵!叩きつけてぶっ殺す!」と復唱させられた上に鉄拳をもらってしまいます。そして、同じ隊の小山一等兵とともに次の日から炊事係の荷運びを手伝うように命じられます。 食事休憩中に小山は、父親の最期を知らせてくれた部隊長からの手紙の内容とともに「南方の戦争はあちこちで玉砕が続いているので死ぬ覚悟はできている。同じ死ぬなら大陸の戦争で死んだ父親のように勇敢に戦って立派に死にたい」と田丸に話します。しかし、彼はスコールで身体を洗っている最中にB-24の空襲に遭い、雨で濡れた地面で足を滑らせて転んだ拍子に石で頭を打ってあっけなく命を落とします。 その後、田丸は小隊長の島田少尉に呼ばれ漫画を描いていたという性質を見込まれて「功績係」に任命されます。田丸は隊員の最期の勇姿を手紙にしたためて内地の遺族に送るという隊長の仕事において、実際にはない物語を作ることを苦手とする島田のゴーストライターとなったのでした。そして、小山が敵戦闘機部隊から守備隊壊滅の危機を救うも壮烈な戦死を遂げたという手紙を書きます。そのあまりにも嘘くさい内容に、小山の父親の最期を知らせてくれた部隊長の手紙を思い出して背筋が寒くなる田丸だったのでした。 ペリリュー島から北東に約1500km離れたマリアナ諸島戦線では、1944年7月7日サイパン島、8月2日テニアン島、8月11日グアム島と全てで大日本帝国軍は玉砕。米軍の狙いは、フィリピンを奪還し、日本の本土攻撃を可能にすることにありました。そのため、9月4日には約800隻の米軍艦隊と4万人余の兵が田丸たち守備隊のいるペリリュー島へ向け出動しました。 圧倒的な物量で攻める米軍の艦砲射撃によって、安全だと思っていた壕の中でも入口付近にいた兵士たちは木っ端微塵に吹き飛ばされ、誰が誰だか分からない肉片になって殺されてしまいます。その光景を前に立ち尽くす田丸は「たまたまそこにいて、たまたま当たって死ぬ、これが戦場なのだ」と理解します。 9月15日早朝、「常勝」を誇る米軍第1海兵師団が島の西浜から上陸し、地上戦が始まります。田丸たちが配置されたその場所は、迎え撃つ日本兵と米兵の銃撃戦によってコマの中が銃声と悲鳴で埋め尽くされ、地獄と化しました。塹壕にいた田丸の目の前に撃たれて倒れてきたアメリカ兵が遺した言葉は「お母さん」でした。 想像を絶する死闘で次々と味方の兵が殺されていきます。田丸のグループも7人中4人が殺され、土の中に隠れて米兵の掃討戦をしのいだ田丸と吉敷は生きて日本に帰るために、ハエがたかる味方の死体から弾薬や油や水などを持ち出し、血と火薬の匂いの風が吹きすさび、ハエが黒山を作る中を遁走します。 一方、島田少尉のグループは、島田が肩を貸して歩いていた部下から「自分はもうダメだから殺してほしい」と頼まれて銃殺し、最後のひとりが死ぬまで戦い続けるのだと決意するシーンで第1巻が終わります。 「緑色に輝く海、海辺に立ち並ぶヤシの木、スコールが作った深い森の中には見たことないほど大きな木と綺麗な鳥」という地上の楽園のような場所で起こった悲劇はたしかに悲しいことだと思います。その上でひとつ注文をつけさせてもらうとすれば、なぜこの島に日本兵がいたのかということについて、踏み込んで描かれていないことです。 アニメーション映画監督の高畑勲氏は4月7日、ポレポレ東中野で上映中のドキュメンタリー映画『標的の島 風かたか』の三上智恵監督とのトークイベントに出演し、「『火垂るの墓』では戦争は止められない」という話の中でその意味を「心や感情は人間にとって大事なものだけど、あっという間に変わる危険性がある。結局、理性が(人間を)支えている。戦争がどうやって起きるかを学ぶことが、それを止めるための大きな力となる」と語っています。二度と同じ過ちを繰り返さないためには、悲惨だったねで終わるのではなく、そもそもなぜ日本がアメリカと戦争することになったのかも含めて今後の展開の中で描かれることを期待しています。