ウェブマガジン・のたる
映画紹介:うたのはじまり~だいじょーぶって、心からこぼれ落ちた。




©2020 hiroki kawai/ SPACE SHOWER FILMS


オープニング、画面には筆談の文字が何枚も乱れ飛ぶ。ろうの写真家・齋藤陽道と、河合宏樹監督(聴者)のやりとりが、音声と筆談で繰り広げられているのだ。 家庭・ろう学校での口話教育、声で歌うことを強要された音楽の時間。自分にとっては振動でしかない音楽が楽しい筈もなく、「うた」が嫌いになった齋藤は、20歳を機に補聴器をやめ、「聞く人」をすっぱり切り捨てる。もともと「見る人」でもある、ろうの齋藤はカメラを持ち写真家になることでより強く「見る」道を進んでいく。  



Ⓒ2020hiroki kawai/SPACE SHOWER FILMS



序盤、聴者の合唱シーンがある。歌う人びとの前で不安げな表情を浮かべる齋藤。やがて「何を歌っているんだ!」と周囲に苛立ちをぶつけるが、無表情で歌い続ける人びと。聴者の中のろう者という構図と、聞こえる人の声での「うた」を象徴し強調する場だとは思うのだが、問う相手に目もくれず無表情なまま歌い続ける人びとに違和感を感じた場面でもあった。


「だーいじょーぶ」とうたう父
Ⓒ2020hiroki kawai/SPACE SHOWER FILM S

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ろうの写真家と結婚し、子どもができるその出産シーンで、ひたすらシャッターを押す、見る人・齋藤。無事に出産は終わり、生まれた子どもは聴者(コーダ)=聞こえる子、発語より先に手話を覚えて手を動かす子。自分には必要のなかった世の中の音や楽器の音な、あれこれ体験させようとする父親。そして、泣く子を抱いた時、自然と彼の口から子守唄のような「うた」が漏れ、また別の場面では「だーいじょうぶ、大丈夫」と節のついた言葉が発せられる。 この、意図せず自然に漏れ出た声、「うた」がこの映画のタイトルであり、河合監督が表現したかったことなのだと、試写会での監督のトークで気がついた。

人類が初めて歌ったであろう歌は、祈りであったこと。うたや音楽の本来の役割は何だったのか。根源は何か。そうだったのか~。そう思って振り返ってみれば、疑問に思ったところ、不思議に思ったところも、実は伏線だったのかも知れないと思ってみたり。今回は予備知識を何も持たずに観たが、次回はテーマを考えながら観てみたいと思った。【田崎ゆき】


       

 

 

「うたのはじまり」公式ウェブサイ
監督:河合宏樹/2020年/86分/配給:SPACE SHOWER FILMS
2020年2月22日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開