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映画紹介:空に聞く~震災から10年、今だから伝えられる静かな物語
Categories: 文化・アート




(C)KOMORI HARUKA


東日本大震災から、まもなく10年を迎えます。もう10年?まだ10年。 抱く思いは人それぞれだと思います。

映画「空に聞く」は、震災で被害が大きかった岩手県陸前高田市で、災害FMラジオのパーソナリティを務めた、阿部裕美さんが主人公です。

阿部さんはアナウンサーでもなく、パーソナリティの経験もありませんでしたが、地元の人々の声を丁寧に聞き、ラジオの電波に乗せて気取らず飾らずに、ありのままの姿を届けてきました。


(C)KOMORI HARUKA



カメラは、阿部さんを追いかけながら、陸前高田の町の復興も映し出します。海の恵みを受けた風情のあった町の姿はなくなり、まっさらな何もない土地だけが残りました。人々の息づかいは消え、雑草だけがどんどん生茂る土地。それでも地元の人は、自然のたくましさに心を打たれ、本当に少しずつ少しずつ、前に進んできたのだろうと感じさせられます。

阿部さんは、ラジオ・パーソナリティを卒業し、新たな道を歩みはじめます。「過去と現在を行ったり来たりしていた」そんな阿部さんが、「少し前を向けるようになった」という言葉には、その場 所で、町を人を見つめて寄り添ってきたからこそ言える重みがありました。


(C)KOMORI HARUKA


たくさんの悲しみや失ったものがある中でも、時間はゆるぎなく進みます。 時間をかけて、人々は少しずつ前に進み、変化を受け入れ、希望を見出すのだと感じさせてくれます。

盛り上げる音楽もなく、ナレーションも過度な演出も、わかりやすい説明もなく、映画はただただ静かに、淡々と進みます。最後には、いつのまにか陸前高田で時を過ごしてきたような、不思議な感覚に包まれます。

メッセージを受けとる、というようりも、肌で体感する、そんな見る人の想像力をかきたてる、「余白」のある映画です。【山口亜希子】


   

■ 空に聞く公式ウェブサイト
監督:小森はるか/2018年/73分/配給:東風
2020年11月21日よりポレポレ東中野にてロードショー、ほか全国順次公開