

三星化学工業(本社・東京)福井工場で、40人の工員の内6人が膀胱がんを発症し5人が労災認定された事件について、被災者4人が会社に対して損害賠償を求めて福井地裁で審議されていた裁判は、5月11日判決が言い渡されました。
判決後に福井市内で開かれた記者会見での発言から、裁判結果をまとめます。
【取材=宮沢さかえ】

弁護団代表・池田直樹弁護士:安全配慮義務違反と裁定された。2016年まで法の規制がなく、オルトトルイジンによる膀胱がんの事例は日本では1例もなかった。産業衛生学会では2001年にオルトトルイジンの発がんの可能性が発表されていて、予見ができた。
法規制された2016年(宮沢注:施行は17年)から15年遡らせることができるかが大な争点だったが、「予見ができた」と明確に判断。判決文では「生命・健康という被害法益の重大性に鑑みると、被告の予見程度としては、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的危惧で足り、(略)具体的に認識することは要しない」と断じた。
これまでは、ある程度の被害などがわからないと企業側に責任を求められないという見解と2分していたが、日本で初めて労災が認められたオルトトルイジン(本件)に関しては、具体的認識はなくても良いとされた。
01年当時SDS(セイフティ・データ・シート)は、被告が入手していた。ここには、「健康に障がいが出る、発がんの可能性がある」と記載されていた。宝の持ち腐れ状態になっていた。オルトトルイジンは、肌から浸透するということがわかっているので、浸透しないような作業服の着用。付いてしまったときには洗い流すという、最も基本的なことすらできていなかった。

損害賠償額はもう少し高くて然るべき。前向きに捉える部分は、2001年以前のばく露も踏まえての250万円と300万円だった。責任を知る前の部分については、賠償を下げた。しかし逆に言えば、遡れれば賠償額を高くすることができる。
被告は、「がんの治療が非常に進んでいて内視鏡施術の場合入院期間も短く、その後も投薬治療ではなく数カ月に1度の通院ですむ」と言っていた。交通事故の賠償はこれが対象で、会社の経理もそれと同じような考え方をしようとしていた。判決では、それを取らなかった。とはいえ、原告の苦しみを考えるともう少し高い額が示されるべきと考える(今後の課題)。
1番評価できるのは、抽象的なリスクがあれば、過失責任が問えるいう考え方に立ったこと。管理者が知っていれば良いSDSが安全配慮義務の根拠になったのは、化学工業全体に大きな影響を与えるだろう。

原告代表・田中康博さん:この3年間私たちがぶれずに裁判を闘うことができたことを感謝します、ひとえに科学一般関西地本はじめ化学一般労連のみなさま、地元福井県労連のみなさま、報道関係者のみなさまのおかげと心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。
この3年2カ月、つらいことの連続でした。私は、雇用延長2年めにして今も三星化学工業福井工場に工員として勤めています。社長を訴えながら仕事を続けるのは、新聞にも載りましたし精神的にもつらいものがあります。でも、そのような中で弁護団や、ここにいる仲間のみなさんの支えがあってこの日を迎えることができたのは、感謝しかありません。
私なりに今日の判決の受け止めですが、1番の大きな成果は、化学会社に勤める多くのみなさんが「職業がんを出さない」という予防線を張ることが大事。これ以上膀胱がん患者を出さないという想いでこの3年間闘ってきました。その警鐘・礎となる判決を受けることができたと思います。
高山健治さん:会社はこの判決を真摯に受け止めて、前に約束した謝罪会見を必ず開いていただきたい。ほかの会社は、何かあると謝罪会見を開いています。でも、未だに会見を開いていない会社の態勢を知ってもらい、この判決を本当に真摯に受け止めて控訴せずに謝罪会見を開いてほしいと願っています。
大久保秀夫さん:今日の判決を得られたのは、組合のみなさんのおかげだと思っています。会社側の責任を認める判決が出たのは、大変うれしいことだと思います。今後は、反省の上に立って、2度と膀胱がん患者を出さないように。
私は3年前に退職していますが、問題の追及・地裁の改善案の提案、直接の原因となったオルトトルイジンの対症療法しかしていない。マニュアル・SDSがあったとしても、対症療法しかしていない。だから、今やめたとしても原因追及をしない限り、またどこかで出る可能性が十分にあると思います。
経営者・管理者・労働者それぞれにいろいろあると思います。原因究明、今後発生しないための不断の努力をする。現場も経営者にもお願いしたいと思います。ありがとうございました。
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