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映画「狼をさがして」の上映中止及び上映中止要求について
Categories: 文化・アート



ゴールデンウイークに起きたできごとで、情報は5月の中旬に受けていましたが、まとめるために時間がかかりました。しかしながら、映画館での公開上映に対する妨害行動は看過できないことですので、掲載します。太秦株式会社提供の記者会見録音と資料を基にしています。【編集=宮沢さかえ】

左から馬奈木昭雄弁護士・小林三四郎さん・太田昌国さん

■映画と上映に至る経緯:太秦株式会社 小林三四郎さん

2019年釜山国際映画祭に行く前に審査用映像を観て、ソウルでキム・ミレ監督と話をして日本での上映を決めた作品です。原題が「東アジア反日武装戦線」です。私は本当に驚いて、なぜこれが韓国で撮られているのだろうかという疑問を抱きながら監督と話をして、監督の考え方に共鳴してこの作品を日本で公開することにしました。

その時点で、すでにあるセンシティブ(過敏)な問題をはらんでいる作品であることは了解していました。私の会社(太秦株式会社)はこれまでに、アジアにおける近現代史を扱った作品を多く公開してきましたので、その中では「観てしまった以上これはやらねばならない作品である」と私は思いました。

この作品は、「東アジア反日武戦線」の思想を辿りながら、彼らが目指したもの・失敗したもの・失敗した後にどのような生(せい)を営んでいたのかを彼女なりの目線で描いた作品です。決してこの作品は、彼らの思想にただただ共感し肯定的に描いた作品ではありません。

隣に居る太田昌国さんも、救援活動をしながら「これは批判的な精神が貫かれている」と言った内容の作品です。私たちは、彼らが目指した反日・50年後に反転してしまった反日についてこの作品を公開することで、1つ考えが提起できるのではないかと私は期待していました。

事実、シアター・イメージフォーラムを始めとして現在30くらいの劇場が上映してくれています。ミニシアターを中心に、いつも(太秦の配給作品を)やってもらっている劇場が果敢にこの作品を取り上げてくれたことに、心から感謝しています。そして今回、あつぎの件がありましたが、今後はどこもこぼれないように、私も身体を張ってやっていきたいと考えています。

■作品に対する思いなど:太田昌国さん(「狼をさがして」出演者)

太田昌国さん

キム・ミレ監督とは、日本に来た時に何回か会っていて、彼女がこれまでに作った作品も観ていて大変感心し、良い作品を作るドキュメンタリー作家だなと考えていました。

かなり前のことですが、彼女に会った時(15~6年前)に、「東アジア反日武装戦線」の存在を知って非常に関心を持って、何かを考えたいと聞いていました。その時は、彼らの救援活動をやっている立場の人間の1人として複数の仲間と彼女と話し合いをしましたが、彼女とうまく意思が通じない。彼女が考えている反日武装戦線の捉え方と、救援活動をやって僕らが直面している問題にずれがあって、彼女自身が長いこと取り組むことができなかった期間がありました。

だいぶ経って再度連絡をしてきて、2015年くらいから本格的な撮影が始まりました。基本的に日本では1974・75年の彼らが活動していた時代のことは、あまりにも衝撃的なことだったのでまともに向き合う-どんな立場の人にせよーこ契機がなかなかなかった。

芝居とか、ノンフィクションあるいはフィクションでは今までにも著名な作家を含めていましたけれども、例えば少し大衆的な表現の映画となると、なかなかやらなかった。そういう意味では、韓国のキム・ミレさんが取り組んで、過去を忘れたままにしておかないできちんと向き合うという姿勢を撮影現場で彼女はずっと見せていましたし、一体これがまとまった時にどんな映画になるだろうと、非常に大きな期待を持ちながらいくつかの撮影現場に同伴しました。

結果的には、非常に落ち着いた冷静な作品に仕上がったと試写会で観て思いましたし、この映画が、私たち日本社会の過去にしっかり向き合わないで捨て去ってきていることに改めて向き合うために、韓国の作家の力を借りて1つの大きな契機にしたいという想いを強く望んで、3月の公開を迎えました。

■あつぎのえいがかんkiki =上映中止の経緯:小林三四郎さん

小林三四郎さん

本来ならば映画館関係者が話をするのが筋だと思ういますが、支配人責任を負う立場の人が体調を崩して、私に説明を一任するということになりました。私の会社は、このところの映画公開においては、街宣やそういう人たちからの抗議を受けて来た会社だと思います。

まずイメージフォーラム(渋谷)で公開して、3~4週間で状況を見てローカルを始めるという流れで考えていました。「金子文子と朴烈(パク・ヨル)」の時にはものすごく電話を受け、ある程度予測はできましたが、今回は電話は全く来ていません。また、これは私が迂闊だったのかもしれませんが、大丈夫だろうということで強い防御態勢を取ってはいませんでした。これは正直に申し上ます。

あつぎの前に4月24日に横浜シネマリンに街宣車が現われたあとの、5月8日のあつぎでした。あつぎKikiは、「主戦場」(配給:東風)うあ弊社の外国作品をどこよりもやってくれていますし、ある程度実績を持っていると、私も認識していました。その中で、4月30日に厚木警察署に右翼団体から5月8・9日の2日間街宣車十数台の道路使用許可の申請がなされた。そこで、支配人から私のところに電話があり-これは非常に硬い意思でしたー「スタッフと施設内の来場者の安全を何よりも優先したい。然る理由で公開を中止したい」と訴えてきました。「包囲はできないのか」と聞くと、「できない」とあつぎの方から中止の理由を出しました。

その時に、諸もろの理由ということで、中止の決定を連絡したのですが、その後いろいろな反応がありました。「どういう理由なのか」「厚木市から何かの圧力があったのか」ということでした。何度も支配人に聞きましたが、そのようなことは一切ありません。担当者に話しても「劇場に一任する」ということで、あくまでも支配人の判断で中止にしたいとの2度めの案内を出しました。

私からすれば、表現の棄損にあたるし「それは受け入れられない」と思いつつも、支配人の判断を翻す根拠を持ち合わせていなかったのが大きな理由です。一方的に劇場を責めるだけでなく、私自身の問題でもあると思っています。じくじたる思いがあります。スタッフに体調を崩す人も現われ、現在あつぎの映画館は番組編成の責任者がいない状態で運営しています。

表現の自由が棄損されるよいう状況を、わが社としてもどのように挽回していけば良いのかということを日日考えています。支配人からの中止の話があったときにどうすればよかったのか、未だに考えています。今後については、街宣予告があって中止したということが残りました。これは、わが社にとってもこれまでやってきたキャリアの中で、本当にじくじたる思いです。

この決断を、どうすれば私なりに克服できるのか、あるいは一緒に頑張っている多くの配給会社にこの事実が十字架のようにのしかかるのがうしろめたい思いがあります。

■太秦代理人・馬奈木昭雄弁護士の事情説明

馬奈木昭雄弁護ぢ

あつぎkikiは、入っている施設自体が市の公共施設内にあって9階建てで、他の施設も入っている映画館だけの独立した施設ではなく、複合的な施設です。それで、市からの圧力云々という話になりますが、そうではないということを繰り返し申し上げておきたいと思います。
他のテナントの関係で、導線が重なる。街宣で車がぐるぐる回るというイイメージでいるかもしれませんが、もし街宣車から降りてきたらということを考えると、ショッピングモール・保育園施設も入っていこともあり、劇場側も重く見ただろうと思います。
また、劇場側は従業員を雇っているので使用者でもある。従業員の安全を確保すること、特に今ミニシアターもコンプライアンス(法令遵守)を言われる時代です。実はこの会場はアップリンクの件(パワハラ)でも会見していますが、職場の安全配慮義務違反がありますので、そういったことも配慮したのだろうと思われます。
表現の自由があることは、劇場は当然重重承知しているとは思いますが、その前提として場の安全を考えてたのだろうということです。

■ 監督メッセージ

キム・ミレ監督

2021年5月18日
日本社会にいらっしゃる方々へ
現在の日本社会で「東アジア反日武装戦線」について問いを発し考えることが、いかに困難なことなのか。そのことは製作を準備するなかで知りました。にも関わらず、私がこの映画をつくったのは、「東アジア反日武装戦線」を貫く歴史を通じて、何よりもまず韓国社会に生きる私たち自身に「加害」について問いかけたかったからです。『狼をさがして』は、「加害」とは何か、「加害者」とは誰なのか、その真実を追った映画なのです。
今や、世界的にポスト真実の時代だと言われています。まさに『狼をさがして』の上映を批判する一部のひとたちが、映画とは全く関係のない事実無根のひどい言葉を投げつける姿を映像で見ました。本当に哀しいことです。その一方で、『狼』を実際に観た方々のたくさんの作品評も受け取っています。批判的なご意見も含め、日本にいらっしゃる皆様からの冷静で真摯な言葉に接することができ、私としてもこの映画をつくって本当によかったと思っています 。
一部上映中止という残念なこともありましたが、そうした事態がこれ以上広がらないようご尽力くださっている、日本各地の劇場と配給会社のスタッフの皆さんや、観客の皆さんに、深い感謝の念と熱い連帯のこころをお伝えします。そして、遠い過去から現在に至るまで、二つの国の間の波濤を超え、友情と連帯をつないできた弱く貧しくも懸命に生きている方々と、これからも共に在りたいと思います。

キム・ミレ

■声明

横浜シネマリンは、「観たい映画はこの街で」をスローガンに、映画の多様性. を重視した作品選定をし、市民に映画を提供している街の映画館です。

4月24日より公開が始 まった『狼をさがして』(2020 年/韓国/監督:キム・ミレ/ 配給:太秦)において、公開初日となる4月24日と、旧天皇誕生日である 4月29日、さらに5月8日に、上映に異を唱える団体が街宣活動を行い、著しく営業を妨害されました。

また、5月7日には、別団体が劇場内まで侵入し、 上映に異を唱えるととともに、館長に合わせるよう執拗に迫り、業務に著しく支障をきたしました。
大音量による街宣活動で威嚇することや、直接劇場に侵入することは、言論の自由を妨げるだけでなく、来場者、劇場スタッフに身の危険を感じさせる行為であり、到底許されるものではありません。

さらにその主張は、映画の内容を歪曲するもので、的外れな主張で相手を攻撃することは暴挙であり、これもまた決して許されるものではありません。
横浜シネマリンは、このような暴力的、且つ的外れな抗議行動に決して屈することなく、上映を続けます。

2021年5月10日
有限会社横浜シネマリン取締役社長・八幡温子

「狼をさがして」公式ウェブサイト