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街の小さなパン屋さん「プチ・フール」
Categories: 文化・アート,
プチフールと六仙公園

プチフールの店頭。左奥に見えるのが六仙公園 2011年1月8日撮影=すべて川越やよみ

 西武池袋線の東久留米駅(東京都)と小平駅のほぼ中間地点を走る所沢街道。このあたりはまだ自然が残り、畑と住宅地の静かな佇まいが広がります。街道からちょっと入った所にある六仙公園は、360度空が見渡せるとても気持ちのいい広々とした公園です。この公園のちょうどはす向かいに自宅の一角を改造した小さいパン屋さんがあります。

 温かみのある手作りの看板のあるお店「プチ・フール」。ここでは天然酵母を使って作られたパンが売られています。
 
 店主の宮沢琅美(ロミ)さんは24年前、生協活動の一環であるワーカーズコレクティブを足がかりとして、10人の女性仲間が各自出資する形でパン店を始めました。その4年後、宮沢さんはご自身の趣旨に沿った形でお店をやりたいとご自宅を改造し、3人の仲間と新たにパン店を開き、今年の9月29日で20周年を迎えます。

プチフール店内

お昼時で、たくさん売れていました

 開店当初から現在まで昔ながらの天然酵母を使って手間暇かけてパン生地を作り、惣菜パンの具も全部手作りです。どうして天然酵母、手作りにこだわるのかというと、「パン店を始めるにあたりパン作り講習会にいくつか出た時に、一般に販売されているパンは如何に安価な材料で効率よく大量に作られたものかという事を知り、愕然としました。工業化で大量生産・消費は出来るけれど、女性たちが長年手作りをして培ってきたものや食べ物の歴史を壊しているのではないか、と思ったのです」(宮沢さん)

 食べ物を作る伝統と技術、これは人間の文化である。この文化を失ってはいけない、この文化を次世代に伝えなくてはいけない、という強い強い思いが一番の原動力との事です。そして、もともとパン作りが好きで始めたこの仕事に「今ではもう完全にはまってしまった!」というのも、毎日続けられる力の元です。

 現在では、20年間お店と共に育ったそれぞれの娘さん達も交えて営業しているプチ・フール。人の手の温もり溢れる何種類ものパンがお店に並びます。手間暇をかけているのに、お値段はお手頃。

プチフールのパン

ロジーネジュンケル(右)とくるみコッペ

 私もこの日、ロジーネジュンケル(ぶどうパン)やアンパン、ラウンドチーズ、カレーパン、そしプチフールお勧めのナッツ棒等を買いました。酵母パンはドイツパンのように固くてあっさりしていますが、ナッツ類や干しブドウも沢山入っているので、噛みしめて食べた時の歯ごたえとジワジワと来る味がたまりません。また、惣菜パンはとても柔らかくふわふわしていて、安全だから子供のおやつにぴったりです。

 プチフールのパンを食べながら考えました。ちょうど団塊の世代の後のほうの私達、宮沢さんと同年齢の女性の立場で20年前を振り返ると、オイルショックで不景気となった時代の中でどう生きるか、ともがいていた時期でもありました。当時、『クロワッサン』(マガジンハウス)という雑誌は女性の自立をうたい、この後男女雇用均等法が成立し、ちょっと下の世代には開かれた(ように見えた)社会の不条理を感じつつ、我々の世代は周囲の「女は結婚」という圧力に負けて自分を見いだせないまま家庭人となった人が多いような気がします。

 そして現在ですが、2009年の男女共同参画白書(内閣府)によると、「夫は外で働き、妻は家を守る」という考え方に賛成する割合は20歳代の方が30~50歳代よりも高いと出ています。でもこれは、「新・専業主婦志向」(「1998年版厚生白書」=厚生労働省)と名付けられた「夫は仕事と家庭、女は家事と趣味的仕事」という役割分担への変化と分析されています。つまり、生活のために苦労して働きたくはないが、社会との繋がりを持つために趣味や趣味的な仕事はしたいという考えです。

プチフール店内

プチフールのインテリアもギャラリーのよう

 家庭の中で子育てをしつつ、いかに自分らしく生きるかを模索する…これは今でも全く変わっていないと思います。まして不況です。主婦の仕事どころか、若者の就職だって大変な時代です。どのように生きていくかがますます問われる世の中だと思います。こんな時代に宮沢さんの生き方は私達がこれから進む1つの大切な方向性を示してくれていると感じました。

  「ずっと続けられたのは、その時その時の生活を大切にしてきたからだと思います。例えば、開店当時からお店を開くのは月水金土。でも第1土曜日はお休みにしたこと。日曜祝日も休み。夏休みも2週間作り、子供と一緒の時間帯にしました。だから体力が保てたのです。でも今は結局、毎日仕事しているようなものですね、保育園とかからの注文があったりするので」と話す宮沢さん。お忙しい所をお邪魔したにも関わらず、仕事の合間に手を粉だらけにして、エプロン姿の宮沢さんは、はきはき、きっぱりと要領よくお仕事への思いを話してくださいました。そこにこの20年の歩みと自信を感じました。

 現在また1つの案が宮沢さんにあります。それは、パン店がお休みの日に居室の6畳間をフリースペースとして地域の方々の作品を展示出来るような場に出来ればというアイデア。パン店とは切り離して考えていきたいそうです。

 世の中には、得意の技をなんとか形にして生きがいを持ちたい、出来れば収入も、と考える方は多いと思います。勤めに出るだけというのではなくて、自分の出来る範囲でひとつの事を決めたら、石にかじりついても頑張ってやり続ける…。その根性があれば、なんらかの形になっていくというひとつの形を見せて頂きました。宮沢さんも、パンが好きという事からこの道にはいられました。まずは好きな事をとことんやってみる、から始めてみてはどうでしょう。これは今回の取材で励まされた私自身へ向けた言葉でもあります。【川越やよみ】

プチフールのパン

ラウンドチーズ(右下)・ナッツ棒(上)・カレーパン

   プチフール店内 

                

          

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プチフール ■ プチ・フール

 東久留米市中央町4―2―18

 TEL.FAX 042―474-0139