ウェブマガジン・のたる
著者インタビュー:『とりあえず日本語で』荒川洋平さん(後編)
Categories: 文化・アート

荒川洋平さんプロフィール
1961年生まれ
立教大学仏文科卒業。ニューヨーク大学教育学大学院修了。デューク大学助手、国際交流基金日本語国際センター専任講師を経て、現在、東京外国語大学准教授(留学生日本語教育センター)。専門はメタファー研究を中心とした認知言語学。
著書に『もしも…あなたが外国人に「日本語を教える」としたら』〔正・続〕(スリーエーネットワーク)ほか。

――今、若い子たちの話す言葉で、きれいじゃない話し言葉がありますが、それはそういうもの、流れということなんでしょうか。

荒川:誰に対して使うかということですよね。仲間内に使っている分には構わないけれども、親や教師とか、公の場所で使うからおかしく聞こえるだけであって、相手に相応しい言葉が使えれば良いんじゃないかということです。

歴史上、年寄りが若者の言葉を嫌がるというのは、大体2000年くらい前からずっとそうなんです。その続きなので、ここで品格とかきれいとか汚いとか言ってもしょうがないんですね。今の80歳の人の日本語を、もし160歳の人が生きて見ていたらめちゃくちゃなんです。その160歳の人を200歳の人が生きて見ていたら「なんだお前の日本語は」となっていって、いつしか紫式部まで戻って行く感じです。

僕らは外で敬語とか家族の中で使う言葉とか、かなり上手に使い分けしているし、バリエーションがたくさんあるんです。若い人が変な言葉を使ってもそれは若い人の中で使う分にはバリエーションの1つじゃないかなと思います。それだけ器用だったら、対外国人向けの言葉だってすぐ作れると思うんです。

――それと同じ流れで、外国人にはやさしく伝わりやすい言葉を使おうということですね。

荒川:はいそうです。

――英語も変化しているんですか?

荒川:変化しています。ハーバードにスティーブン・ピンカーという心理学者がいるんですけれども、ピンカーが、「私たちは、この21世紀の前半にアメリカ英語のものすごい変化の真っただ中にある」と言っています。それは何かというと、「like」という言葉。アメリカンスクールがこのお隣にあって、宇多田ヒカルも行っていた学校なんですけれども、アメリカンスクールの子どもは、ここでも来て日本語を勉強しているんです。日常の会話をする時に、1分間に3回くらい「like」「like」って言うんです。これは要するに日本語でいうと「○○みたいな」なんです。「昨日ちょっとデパート行ったみたいな。でちょっと新しい服を見た、みたいな」という感じで使われています。

で、イギリス英語とアメリカ英語の分化っていうのは大体200年くらいで起きたわけなので、あと50年くらいでアメリカ英語は相当変わるんじゃないでしょうかね。ニューヨーク大学で習ったハーベィ・ナドラーという英語学者も、あと50年くらいで英語の現在完了形はなくなるんじゃないかと予測していました。要するに、現在完了形は現在形か過去形に置き換えられちゃうということです。

 気負わずに、「とりあえず日本語で」

――こういうお話を聞いていたら、ちょっと気が楽になりました。きちんとしゃべらないと外国の人と接してもいけないんじゃないかと思っている人間なので。やっぱり受験英語やテストのための勉強というものが染みついているんだなと思いました。でも、実はさっき話したように、単語はいっぱい知っているんですよね。だからそこから一歩踏み出すことが大事なんだなと思いました。

荒川:本当にそうですよね。今、外来語の数がこれだけあるということは、実は元の単語を追っかけていけば2000も3000も知っているわけなんですよ。それだけ知っていれば相当コミュニケーションが取れますからね。特にコンピューターの言葉なんてカタカナばかりですから。

――すでに多くの国で共通に通じる言葉を使っていたりするんですよね。それに気がつくかどうかでしょうかね。あとは、気負いがない方が良いということですよね。顔かたちが違っていても、「おーい」とか気楽に声をかければ良いのでは。

荒川:そうですよ。取って食われるわけじゃないんですから。本当に、「とりあえず」で良いと思うんですよ。

――本のタイトル通りということですね。

荒川:大学の先生としての自分の役割は、言語学のある分野での学術的なリサーチを徹底的にやって、論文を何十本も書けるくらいの情報を集めて消化したあとに、「今アカデミックな世界ではこうなっているけれども、これを現実の社会にどう役立てることができるか」とわかりやすい形で出すことだと思う時があります。

学者の世界は、全員がクラシック音楽をやっているようなものですが、そこで1人だけポップスをやろう、っていう感じでしょうか。仕事としてはクラシックもやらなくてはいけませんが、それ以上に大事なのはこういう仕事(本)だと思っています。わかりやすいもので奥が深いものを綿密に調査しておいて、そのエッセンスや課題を一般の人が興味があるところにぎゅっとまとめてわかりやすく示す。これはこれからもやっていきますので、どうぞご愛読ください。【のたっふ=編集部】

◇  ◇  ◇

スリーエーネットワーク第二出版部バナー

著者インタビュー『とりあえず日本語で もしも…あなたが外国人と「日本語で話す」としたら』荒川洋平さん(前編)

著者インタビュー『とりあえず日本語で もしも…あなたが外国人と「日本語で話す」としたら』荒川洋平さん(中編)