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映画「さなぎ~学校に行きたくない~」上映後にトークも開催
Categories: 文化・アート

 

「さなぎ」上映後トーク

上映後のトーク。左から三浦淳子監督・木下洋子さん=主人公愛さんの母
・木下愛さん 撮影=古川晶子

 
「不登校」という言葉が登場したのはいつだったか。現在ではその意味が分からない人はいないくらいすっかり私たちの言葉の中に定着しています。でも実際のところ、それは特別な境遇の特別な人に起こることで、できれば自分自身は当事者やその家族になることなく過ごしたい、そんな忌避感とセットになっている言葉ではないでしょうか。

映画「さなぎ~学校に行きたくない」は、長野県喬木村で小学校1年生の2学期から3年生までを「不登校」で過ごした、木下愛さんと家族の姿を追ったドキュメンタリー映画です(作品についてはのたる・映画紹介に掲載 )。現在、渋谷のユーロスペースでモーニング上映と監督・登場人物などのトークが行われています。

1月5日の上映後トークは、三浦淳子監督と木下愛さん・洋子さん(母)を囲んで行われました。愛さんはもう23歳の社会人1年生、洋子さんは学校図書館での勤務と父(愛さんの祖父・堅固さん)の介護を担っているなかでの参加です。三浦監督と木下家の皆さんの、息の長いあたたかなつながりを感じます。

 

「さなぎ」カフェトーク

カフェトークで洋子さんが話している場面

 

映画では、あたたかい大家族と、喬木村の四季折りおりの豊かな自然に囲まれて、のびのびと遊ぶ愛さんや友人たちの姿が印象的でした。トークでは、洋子さんが子どもたちの安全にどれだけ注意を払っていたかということ、映画に登場しない担任の先生が愛さんの「不登校」を受け入れて、何くれとなく心をくだき、学校に戻れるまでしっかりとフォローしていたこと、などなど当事者ならではのエピソードの数かずをうかがうことができました。

「不登校」の要因として、家庭の問題(両親の関係など)・環境の悪さ・いじめ・教師の無理解などがよくあげられます。しかし、愛さんのように、そうしたことが当てはまらなくても学校に行けなくなることはあるのですね。

作品中に、大学4年生になった愛さんが当時を振り返って「教室入ると30人くらいに人数が増えるから、一気にワッて緊張して、ずっと緊張しっぱなし」と語るシーンがあります。その緊張に耐えられるようになるまでに約2年かかったということでしょう。元の学級に戻った4年生以降も、クラブ活動がイメージしていたような楽しく創造的なものではなく、がっかりする愛さんの様子が見られます。そこで私は「リアリティ・ショック」という言葉が思い浮かびました。

 

「さなぎ」カフェトーク

監督と乾杯する愛さん

 

「リアリティ・ショック」は、一般的には新卒の就職において、入社前の期待と入社後の現実とのギャップで衝撃を受けることを指します。この状態になると個人差はありますが、職場や職業、働くことそのものや自分自身に至るまでを疑い孤立を感じて悩みます。大きな力になるのは率直に話ができる人の存在で、それがあれば3年以内に乗り越えられるとされています。成人のキャリア発達の段階を表す言葉ですが、実は私たちは子どものころからリアリティ・ショックを繰り返し経験しているんだな・・・と、「さなぎ」を観、トークに参加して気づかされました。

愛さんの場合はそれが「不登校」という形で表れたけれど、暴れて発散する子もいるでしょうし、まったく別の興味に没頭して通り過ぎる子もいるでしょう。目に見えやすいかどうか の違いではないでしょうか。そして、大人もまた同じく。

 

監督・木下親子との記念写真

カフェトーク終了後の記念写真。監督・木下親子の両脇がのたる編集長・宮沢(左端)とライター・古川

 

そう考えると、「さなぎ~学校に行きたくない~」は、子を持つ親や教育関係などにとどまらず、生きていく中で避けられない変化や節目を乗り越えるすべての人に大切な知恵を与えてくれる作品です。この貴重なしかしとてつもなく苦しい経験を、映画とトークという形で提供してくださる関係者の皆様に深く感謝します。【文=古川晶子・写真=宮沢さかえ】

 

「さなぎ」メイン写真

Ⓒトリステロフィルムズ

■ 映画「さなぎ~学校に行きたくない」公式サイト

上映情報・作品紹介など