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『ビッグイシュージャパン』創刊10周年トーク~陰謀を抱いて進もう
Categories: 文化・アート

 

『ビッグイシュージャパン』創刊10周年記念イベント(9月1日・東京で開催)のトークのもようを、録音を基にした要約でお伝えします。

 

ジョン・バードさん=イギリスのビッグイシュー創設者

ジョン・バードさん=イギリスのビッグイシュー創始者

■ ジョン・バードさん

ロンドンで22年前にビッグイシューを始めました。当時、ロンドンには多くのホームレス団体があったのですが、ホームレスに色いろな物をあげていました。でも、お金を稼ぐ・作るそれによって人生を変えていく機会を与えていませんでした。ユダヤ教やキリスト教の世界においては、施しを与える・受け取るということがあるわけですけれども、それによって自らを上の人生に上げていくという機会を奪ってしまいます。

僕自身も監獄にいたこともあればホームレスをやっていたこともあり、世の中のありとあらゆる辛酸をなめてきた経験がありますので、そういう背景もありました。飲みすぎて警察と闘ったり路上で闘った人たちにチャンスを与えることができれば、それを使って彼らは立派にやりとげることができる。そういうデモンストレーションができると思っています。

この功績はイギリスだけでなく、アメリカやヨーロッバその他の場所でも十分機能するモデルだと考えて、10年前に日本に来て、今ここにいるビッグイシューを立ち上げた人たちと一緒にやり始めました。

大阪で第1日目の販売をした日に、販売をした男性が最後に泣きながらこう言いました。「空き缶を詰める仕事を10年間していたのですが、一度も屋内で寝ることができなかった。この日ビッグイシューを売ったことによって、10年間で初めて屋内で寝ることができる」。

この日がすばらしい日と言ってもいいのですが、同時にビッグイシューが日本に来て呪われた課題を取り組み始める最初の日だったとも言えます。本当であれば必要のない事業であってほしいと思います。ビッグイシューがなくなる日というのが社会にとっては良い日になるという意味でビッグイシューはカースト(呪われた)事業であると言えます。

ビッグイシューが関わっている人たちは、これまでは問題だと思われていた人たちなんですけれども、その人たちが自ら解決法=ソリューションに代わることによって成り立っていくこうした変換を図って行きたいと思っています。
 

浜矩子さん=経済学者。ビッグイシューにコラムを連載中

浜矩子さん=経済学者。ビッグイシューにコラムを連載中

 

■ 浜矩子(はま のりこ)さん

(私は)日本はこれから成熟社会になっていかなければいけない、あるいはもうすでに成熟社会であるはずだと申し上げてまいりました。成熟社会はどういう社会かということを端的に手短に言えば、大人の社会・大人らしい成熟度を持った社会ということになります。

大人の社会ということをもう一息突っ込んでイメージを展開してみるとどういうことになるか。大人の社会ということにヒントを与えてくれたのは、芸術作品=「老楽(おいらく風呂」という桂文珍さん作の現代落語です。

この噺の中で大きく印象に残ったのは、「戦ったらあかんで」ということです。「戦う街はホームレスでいっぱいになる」と悩めるサラリーマンに言うんです。さきほど、ジョン・バードさんが言われたように、ホームレスがなくなる日のために努力をしているわけですけれども、「他の街にはホームレスがいっぱいいる」という言い方が胸に来ます。

浜矩子さん
要するに老楽の社会=戦わない社会・肩の力が抜けている社会・ボーッとしている社会を手に入れることができれば、そういう社会の街の中からはホームレスが消えてなくなるということだな ということを思い、これからは老楽の社会じゃないかと強く思いました。
ただし、私が老楽風呂という落語の中で語られている老楽イズムには、欠けている物があると思います。肩の力を抜いてボーッとする・戦うことをやめるだけでは矛盾がある。本当の大人の社会にはならない。では、本当の大人の社会・本当の老楽社会が必要としている発想・姿勢・物の考え方は何かと言うと、3つの側面があるように思います。

1.人の痛みがわかる
2.人のために動く
3.「足るを知る」を超えること

本当の大人の最大の条件は、人の痛みがわかること。子どもと大人の最大の違いはそこにある。しかし、人の痛みがわかるだけでもなお不十分で、人の痛みがわかればその傷んでいる人のために動くことが伴ってこないと本当の大人であると言えないのではないかと思います。動くというのはまさにビッグイシューのみなさんがやられてきたこと。

今日はおめでたい席ですので、言わないでおこうと思っていましたが、今の安倍政権・安倍チームは、最も人の痛みがわからない人びとによって構成されている集団ではないかと言う気がしてしまう。自助能力があるものだけに対して幇助を施すという路線で物が言われている。最も老楽の社会から遠いのがアホノミクス(アベノミクスのもじり)。

行動を起こしていくために必要なことは何か。ここにも必要な物=3本の手がある。
差し伸べる(差し伸ばしていく)手・抱きとめる(抱擁する)手・握りしめ合う手。ホームレスを助けるという上から目線ではなく、ビジネスパートナーであるという考え方が、ビッグイシューの根源的な心意気だと言っています。いろいろなタイプ・境遇の人が3本の手をもち、人の痛みがわかり人のために動き足るを知るを超える所に私たちが到達できると、それが本当の成熟社会・大人の社会だと思うし、ビッグイシューが私たちに示してくれてきたのがその姿ではないでしょうか。
 

萱野稔人さん=哲学者

萱野稔人さん=哲学者

 

■ 萱野稔人(かやの としひと)さん

10年前(2003年)は(私が)留学から帰ってきた年なんです。1995年からフランスに居たのですが、その間はホームレスも社会も盛り上がった時期なんです。私も論文などを書く空き時間などにホームレスのデモに時どき行っていたんですが、7~80年代にヨーロッパは社会保障が充実した。いろんなものが充実して、例えば失業率とかホームレス、高齢者などが保障されてきた。その結果何がおこったかというと、むしろ社会的な配慮が固定化してしまった。

どういうことかと言うと、お金はある・生活は保障される。それを続けていくと社会改革をする機会が全くなくなってしまう。これだけホームレスの社会的支援を充実させたにも関わらず、彼らが社会に関わって行くにはどうしたらいいかわからなかった。どうやったら社会参加の機会を作れるかという議論が90年代になかった。

その過程で、ホームレスや失業者の運動が盛り上がったんです。「こういう問題があるのか」と思いながら私は見ていました。その経験をした中で日本に戻ってきたら、ビッグイシューが刊行していた。90年代後半は、新宿駅西口にホームレスが居て「私たちには生存権」があるんだと主張していましたが、当時の都知事(青島幸男)が段ボールハウスを撤去して世論をにぎわしていました。そういった、おそらく国際的な流れの中にビッグイシューの日本での刊行があったのではないかと思います。

日本でもホームレスの運動も今から見れば、ヨーロッパで盛り上がっていたホームレス・失業者の社会運動と呼応していたと思いますし、そこには単なる社会保障・福祉の対象とだけと見られていた人たちが、声を上げ出していくプロセスだったのかと言われています。

今日(私に)与えられたテーマは縮小社会の課題ということで、話は変わります。

萱野稔人さん縮小社会と言った時に、一番は人口の減少です。いわゆる生産年齢人口(15歳から64歳)の働き世代=より働いてより消費する世代が、96年から減少しています。総人口も05年から減少しました。こういう具合に、今後日本の人口はどんどんどんどん減って行く。人口が減るということはいろんなものが縮小していくわけですよね。市場規模も政府の予算規模も縮小していく。その中で生きていく先も縮小していかざるを得ない。

今までは拡大社会でした。人口は増えていく、経済成長もそれに伴ってしていく。マーケット・市場も拡大していく時代。だから、何をやってもプラス思考でいけたんです。来年はどちらにしても経済成長で税収がこれくらい増えるだろうという予想ができたので、じゃあもっと大胆に財政策をして、福祉予算に近づけましょうとか公共事業をやりましょうという形で予算を考えることができた。

多くの人もそれに期待して協力できたし公共投資ができた。もっと福祉を増やせということも言えたし、公共事業を増やせとも言えたし他の関係者は他を増やせと言えました。でも、言えなくなったわけです。

この前、概算要求が出ましたが99兆円です。でも、税収は40兆円しかないですからあとは借金です。そういう中でわれわれはものごとを考えて行かざるを得ない。どこを削ろう、どこか削らなきゃいけないだろう。誰を削るか、何を削るのか。家賃を削ってもっと安い所に移ろうか。まずそれで解決できればいいけど、人を減らさなくちゃいけない。いきなり減らすわけにはいかない、誰をどういう形で減らすのか。今までは、プラスの方向で全てを考えていけばよかったのが、マイナスしか考えられなくなった。ここは、大きな難しさですね。

縮小社会というのは、これまでの常識をガラッと変えないといけない時代時代なんですね。その中で、1つ例を考えてみたいと思います。本の出版が完全に飽和状態になっている。飽和状態の陰に何があるかといえば、編集者は猛働き。それこそ、過労死寸前で働いています。5人で1人年間10冊作っていた物を、3人で年100冊やれってことです。そうなると、彼らのライフワークバランスはないです。当然、価格破壊(値崩れ)が起こります。出版業界は、値崩れしにくい分野なんだけれども、これだけ過剰供給されれば値崩れが起きます。新書ブームがまさに値崩れなんです。

他の業界にも似たような状況があります。高速ツアーバスの規制緩和。2000年に規制緩和されました。去年のゴールデンウィークに上越自動車道でバス事故がありました。高速バスツアーで過密労働で運転手が居眠りをして悲惨な事故が起きました。規制緩和によって事業者数が倍になりました。でも、1台当たりの事業収入は2割落ちている。つまりこれも供給過剰になった。

マーケットが縮小している時に規制緩和をすると供給過剰になって値崩れします。結局この間行われた一番の規制緩和は労働市場。派遣をもっとしづらくしましょうとか賃金の内容をもっと下げられるようにしましょう。そうなれば企業は儲かる。名目賃金が、日本だけが下がっている。これではデフレになるのは当然。私たちの購買意欲は下がっている。経済政策を常に供給側の生産力を増やせば経済成長が復活するのだという思い込みでずっとやっているからこうなります。

派遣法の見直しが始まりますよね。規制緩和されると、またわれわれの賃金が下がる。賃金が下がるとわれわれの購買意欲が落ちれば物が売れなくなる。必然的に企業は儲かるけれどデフレになります。縮小社会の現実を見ない限り、われわれの不幸は増していくだけ。そういった発想の転換、われわれ自身のものの見方・価値観だけじゃなくて政策の中身まで変えて行かなくてはいけない。

 

ビッグイシュー対談

 

対談:「これからの日本を考える」

萱野:縮小社会と成熟社会についてどう考えたらいいでしょうか。

浜:縮小社会がいかに悲惨な状態になってしまっているか。成熟社会とは正反対の方向に行ってしまっている。おかしさ・奇異な感じがする。

豊かさの中の貧困問題=ホームレス・ワーキングプア・縮小社会でありながら成長しなければならないと思い込んでいることについて、萱野さんいかがですか。

萱野:多くの外国人が日本に来ると評価する。清潔な国で食べ物が美味しい→賃金格差・餓死すら出ているのは、正規から非正規に変わっている=団塊の世代の大量退職の穴埋めが非正規に・リストラによるもの。労働組合が、首を切るんだったら非正規でというのがあったのではないか(組合の批判をしているのではありません)。

縮小社会は、パイが縮小する社会(分配するパイ・事業規模)。財政も縮小=税収の減少。パイが縮小するということは、分配の問題がシビアになる=既存の力関係・賃金の問題が半面しやすくなったのではないかというのがトータルの考え。大企業で、労働組合が機能している人たちは比較的賃金がへらされる率が少ない。若者は社会の新規参入者で何の発言権もない。

浜:縮小社会になっているにも関わらず、人びと・企業・行政の動きが拡大社会の時のまま→供給過剰。原発での議論にも出るが、「それまでの水準を維持できなくてもいいのか」という言い方。

萱野:賃金低下→購買意欲の低下=自分で自分の首を絞める

浜:私は、「縮小社会」と聞くと楽になる(アクセクしなくてすむ)と思う。人口も減るわけだから、分け方を考えれば特段問題になることはない。富の分かち合い方も拡大社会の時のまま。どこかにたまった富を上手く分配していけばいいのではないか。縮小が縮小を生んでしまうので、発想の大転換が必要。

萱野:生活保護バッシングは、そういう人たちに回す余裕がないという考え方。縮小社会は、どんどん排他的な社会になる。

浜:縮小するからこそ分配する必要があります。粘り強くやっていくしかない。政治の方向性を変えるのは私たち。方向性を示せるのも私たちです。いかにまともな発想でまともに行動していくか。決してめげない・ごまかされない・まやかされないものを持っていることが必要です。

佐野章二さん(ビッグイシュージャパン代表)の10周年記念の本の中に、「面白い・可笑しい・楽しい」という言葉がたくさん出てくる。一番つらいことをやっているのに、それが楽しいというのがすごいと思いました。それは、陰謀の楽しさではないかと気がつきました。「陰謀」というキーワードを掻き抱いて前進していくといいんじゃないかと思います。すばらしき縮小社会のための市民的陰謀を持っていくと、全然違う風景が見えてくるのではないかという気がします。今日はその決起集会です。

■ トークを聞いて

最後に語られた「陰謀」、さらに「希望達成のための陰謀」という言葉は、現在が希望を持ちにくい社会だからこそ響いてくるような気がしました。のたるで何回か取り上げた映画「日本の悲劇」の小林政広監督が、「追い込まれている人が、自分だけではない と思ってくれたらうれしい」ということと重なりました。陰謀を企てている時が一番楽しい、社会を変えるのは私たち(浜さん)。【写真・取材=宮沢さかえ】

 

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