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主役インタビュー:岩崎加根子さん(俳優座)~丁寧に人間を描く
Categories: 文化・アート

 

俳優座70周年記念公演の最後を飾る「桜の園」が、15日から俳優座劇場で上演されます。稽古中の岩崎加根子さんに、劇団事務所でインタビューしました。【聞き手=宮沢さかえ】

――「桜の園」初出演(アーニャ役)の時の思い出をお聞かせください

岩崎加根子さん:俳優座1期生 1999年度「読売演劇大賞・最優秀女優賞」「紀伊国屋演劇賞・個人賞」受賞

岩崎加根子さん:俳優座1期生
1999年度「読売演劇大賞・最優秀女優賞」「紀伊国屋演劇賞・個人賞」受賞

岩崎:「『アーニャは若ければ若いほどいい』とチェーホフが書いているから、加根子おやり」ということで、やらせていただくことになりました。その時は養成所の生徒で、本来は公演に出ないで勉強だけやるということだったのですが、1期でまだ養成所ができていなかったので研究生候補で劇団に入っていました。そこで、先輩たちの合間で教えていただいたり授業もありましたけれど、裏方で芝居に付いたりしている内に初舞台で田中千禾夫先生の「おふくろ」の峰子をやりました。私は15歳で入りましたからその次にもまた女学生の役をやるという、とても恵まれていて役を付けていただきました。

その後養成所が設立されましたが、研究生候補の人たちはスライディングで1期生になったんです。そんなことでしたから、アーニャも若い役だからということで、迷いながら出させていただきました。

それは、東山千恵子さんの還暦祝いの舞台でした。芝居の仕方などは、先輩たちがなさるのを横で勉強しながら稽古していました。父が熊本で母が関西なものですから、なまりがずいぶんありましたので、それを直していただいたりしていました。「新しい生活がママにはあるのよ」という台詞を熱心に言えというところでボーッとしていたら、「とにかく一生懸命おやり」ということを言われました。ずいぶん経ってからその台詞を見ましたら、その部分はツバの跡が付いていました。

東山さんはとても温かい優しい方で、いろいろと面倒を見ていただいたりしました。ですから30年経ってラネーフスカヤ(アーニャの母)を演(や)ることになった時、お墓参りに行かなければいけないと思って、ラネーフスカヤは38歳ですし赤いバラがお好きでしたから、38本持って伺いました。それは、東山千恵子追悼公演という形になりました。

アーニャは、初めは何も知らないお嬢さんだけれど、トロフィーモフ(大学生)は自分の理想を掲げているのに感化されていって、滅びて行くお母さんを見て「桜の園はなくなったんだから、そこからまた新しい生活を始めましょう」って励ますようになっています。人間のわからなさというものも、チェーホフは表わしているし、わからないということは100年経っても200年経っても、人間と人間てどうしてうまくいかないんだろうということがあると思うの、ずっと。そして、わかりたいんだけれどわかることができない。だけど、理想だけは持って生きようよ。

今の時代でも、いがみ合ったり、大切なことを決めなければならない国の偉い方たちもせめぎ合って、本当の理想をみんなで掲げて行こうよというのがすれ違って、いろんな風になっているでしょ?大事な時ですからね。それを、チェーホフが100年前に書いているということは、私たちも心してきちんと読み直さなくてはいけないと思っています。

――戯曲に限らず、「名作」と言われるものには、何年経っても共通していることや改めて気づかされることが描かれれているのではないでしょうか?「桜の園」にもそんなメッセージがありますか

「桜の園」1998年公演 提供:劇団俳優座

「桜の園」1998年公演 提供:劇団俳優座

岩崎:作品はそのまま演りますけれど、この役は4回目でも昔演った通りをやるわけではなくて、新劇は特に芸の継承などはありませんから、その時その時の俳優が、今の時代に自分の考えで解釈して演じます。同じ役でも相手の役者も違いますし、今の時代の人たちにわかっていただきたいと思えば、自然と演じ方が変わってくると思います。

それは形としてまたやるのではなくて、もう1回根本的にこの作品は何を言いたいのかということを洗い直して、きちんと読み直してから演りたいと思っています。昔こうやったからそのままというのではないように、気をつけたいと思っています。

――岩崎さんは、すでに長年俳優をなさっていますし、年月が経っているので敢えて変えようとしなくても、自然に出てくるものが違っているということがあるでしょうか?

岩崎:感じ方が、やはり変わってきますね。描くようにやっていたところ・名作の名台詞のようなところもありますが、それを流してやるのではなくて1つずつ「ここはもっと噛み砕いて話した方がいいかな」「相手に届くように話したいな」ということろは、ちょっと分けたりします。もちろん、観客にわかるように演るのではなくて自然に理解していただきたいと思ってやろうと思っています。

昔観た方は、「あー、また観られるからうれしい。楽しみにしています」と言ってくれることが多いけれど、「チェーホフってなに?」という若い人たちにも昔こういうことがあったけれど、今どう感じるかということを逆に聞きたいです。

――最初にアーニャの役で、次からはその母親・ラネーフスカヤをなさっていますが、その時にアーニャのお母さんになったのだなあという感じがありましたか?

岩崎:いえ、それはありません。芝居の中では、もちろん娘との関わり方でありますけれど、本当を言うと(2人は)性格が全然違うんです。アーニャの方がしっかりしているの。お母さんはしっかりしていないから、こうなっちゃった。ラネーフスカヤはリュボーフィという名前でみんなはリョーリャと言ってくれているけれど、ロシア語で愛という意味=愛ちゃんなんです。

チェーホフがその名前にしたということは、何に対しても愛がある。それこそ家に対しても。1番は桜の園=この土地を愛していた。そして周りに居る人たちもみんな自分の愛で蘇ると思っているという象徴でその名前にしたんじゃないかと思うんです。

それが崩れていくのは、5歳の子が死んでしまうとき。あんなに愛した子がおぼれて死んだということがショックでパリに行ってしまうわけですから、その挫折感というのがいつも檻のようにあって、自分が愛した者にそむかれてしまう。最後は愛した桜の園も失ってしまう。

もちろん、母性愛があるでしょうけれど、特別に娘に対して「お母さんだから」というのはあまりない。非常に幼児性が残っている女だと思って演りたいと思っています。

――もし亡くなった子がいたら、また違った人になっていたでしょうか?

岩崎:ええ、そうだと思いますよ。それは、今の世でもあるでしょ?子どもを亡くした方はすごい挫折感などが、あると思う。それをそれぞれ自分で処理して、大人になっていくんでしょうけれど、この女はどうもそこで大人になれなかったらしくて。。。でも、人間は不幸を乗り越えていかないと幸福は得られないこともありますから、それがこの女の滑稽さだと思う。

喜劇というものの見方を、チェーホフはそう思ったんじゃないでしょうか。

――「桜の園」を観に来られる方にひと言お願いいたします

稽古中の岩崎さん 提供:劇団俳優座

稽古中の岩崎さん 提供:劇団俳優座

岩崎:どんな芝居でもいつも申し上げるのですが、見所などとこちらから言うのは僭越ですので、とにかくどんなことが行われるのか興味を持って、座って観ていただきたいです。その舞台で楽しいとか良かった、きれいだったとか何か1つでも見つけていただきたい。

私たち俳優座は70周年を迎えましたけれど、こうやって1つひとつ丁寧に人間というものを描きたいと思っていますから、それは普段感じなくても芝居の上では「こういう人間もいるんだ」ということをわかっていただきたいと思うのね。なるべく柔軟な気持ちで素になって観ていただきたいと思います。こうじゃなきゃいけないというのは、ありませんから。

それから、訳者の湯浅芳子さんはロシア語を良く理解していらした方だから、日本語に訳すのはすごく大変なことだったと思うんです。まして、芝居の台詞として日本語の美しさを失わずに翻訳してくださった。私たちはやはり、芝居をやっていく人間として日本語の美しさも伝えなければいけないと思うんです。あまり丁寧過ぎてわからない言葉もあるかもしれないけれど、それも雑にしないで、大事にしたいと思います。

◇  ◇  ◇

俳優座70周年記念公演を、2014年1月公演から今年の1月までということでやってきました。「桜の園」は、チェーホフ公演の4弾目になります。2011年から13年まで毎年1作品をやってきました。これまで3回は稽古場でやっていたものを劇場でやることになりました。

チェーホフを70周年記念の最後に取り上げたのは、今まで長い間やってきたということと、今の新しい芝居にもチャレンジしながらも、チェーホフ=近代古典を実際に長年演ってきた人たちが現役でいるときに若い人たちにもその芝居を経験して、しゃべり方や良さを残して行きたいと思っています。

ですから、前に観たからもう1回観たいと思う人も前に観損なった人にも観ていただきたいですけれども、チェーホフは全然観たことないという人、俳優座70周年記念の最後でチェーホフの第4弾だから観ようかという人でもぜひ観ていただければということでチラシも見開き(4ページ立て)にして、役者も全部出していますし年表も掲載しました。(俳優座制作部・下 哲也さん)

■ 「桜の園」公演案内

2015年1月15日~25日
俳優座劇場(六本木)
一般5400円/学生3780円(各税込・全席指定)