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映画紹介:「ふたりの桃源郷」+トークの言葉から
Categories: 文化・アート

 

(C)山口放送

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「ふたりの桃源郷」は、山口県のローカル放送局が25年にわたり、取材・放送を続けたドキュメンタリーの映画化です。

電気も水道も通っていない山奥での田中寅夫さん・フサコさん夫婦の暮らし。カメラはふたりと、ふたりを見守る娘たち、その夫たちを寡黙に追います。その結果、本作品はひとことでは言い表せない衝撃と感動を観た人に与えます。

人によって、また世代や性別によっても、様々な受け止め方が可能な映画だと思いました。
ある人にとっては、終わらない恋愛を描いた物語かもしれません。
またある人にとっては、自らの、あるいは自分の親の老いと向き合うきっかけとなるかもしれません。
家族という奇蹟とみる人もいるでしょう。違いをみとめ、受け入れ、そして支えることは、血が繋がっていても難しい場合が多々あります。

 

「(C)山口放送

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戦後の何もなくなったところから、「自分たちの食べるものは自分たちで作ろう」と山での暮らしを選択した寅夫さんとフサコさんを支えたのは、反骨精神と言ってもかまわないでしょうか。

子どもたちの将来を思い1度は山を下りるものの、再び夫婦ふたりになった時に生きる場所として選んだのは、やはり山でした。

 

「(C)山口放送

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やがて、ふたりに老いが忍び寄ります。寅夫さんが発作で倒れたのです。

けれど、老人ホームに入居するようになっても、ふたりは数カ月もしないうちに昼間は山へ行く生活に戻ってしまいます。山に入ると、にわかに生き生きしだすふたりの表情に引き込まれます。

最初のうちは心配して自分たちに頼ることをすすめていた娘たちも、いつしか山を中心とした両親との関わり方を模索するようになります。三女夫婦にいたっては、自営の店をたたんで、山の麓に引っ越してきます。そして、だんだん畑仕事のできなくなってきた両親に代わって、昼間は山で作業をするまでになるのです。

 

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佐々木聰監督(左)と吉岡忍さんのトーク

佐々木聰監督(左)と吉岡忍さんのトーク

連日満員のポレポレ東中野で、21日の上映後に行われた佐々木聰監督と作家の吉岡忍さんとのトークイベントがありました。

 

吉岡さんはこう言っていました。「若い人は愛の映画ととらえるかもしれない。確かに愛の映画ではあるが、同時に『信頼』ということを描いた映画でもある」。

さらに、現代人は「人が信じられないという文明の病に侵されている」とも。ところが、スクリーンの中の老夫婦には、人を信頼しないところがまったくありません。

また、「街に暮らす私たちにとっては、自然は親しむ対象だが、ふたりにとっては、自然や天候の方がずっと手強い相手なのだ」という指摘も興味深かったです。

それは逆に言えば、私たちは自然のむごさや理不尽さに鈍感でいられているだけなのかもしれません。吉岡さんは、本作品を「やさしく、深く、怖い作品である」と評しています。

佐々木聰監督は、ペットボトルのお茶を飲んでいたら寅夫さんが野草茶を飲ませてくれた話を披露していました。映画の中では特に語られていませんが、寅夫さんたちは野菜をほぼ無農薬で化学肥料も使わずに作っていたそうです。そこにも文明に対するメッセージが読み取れると思いました。

一見ほのぼのとした雰囲気とタイトルの映画ではありますが、文明に対する痛烈なメッセージを含んだ作品です。会場は年配の方が多いように感じましたが、若い人にこそ見てもらいたい映画です。【石渡紀美】

 

     

■ 「ふたりの桃源郷」公式ウェブサイト

監督:佐々木聡/製作著作:山口放送/2016年/87分/
ポレポレ東中野で公開中。6月11日より山口情報芸術センターほか全国順次上映