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映画紹介:「アトムとピース」~被爆3世・瑠衣子の自分への問い
Categories: 文化・アート

 

 

東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで、「アトムとピース~瑠衣子 長崎からの祈り~」が上映中です。「8月」の前に、観ておきたい作品です。

 

ⓒ2015ソネットエンタテインメント/AMATELAS

ⓒ2015ソネットエンタテインメント/AMATELAS

まず、この「アトムとピース」というタイトルがいいですよね。リズムがかわいくて少しファンタジックな香りがする、主人公の瑠衣子さんの雰囲気に合っています。

映画の主人公・松永瑠衣子さんは長崎で生まれ育ちました。祖母のスエ子さんは、71年前に長崎に落とされたプルトニウム型原子爆弾によって被爆。瑠衣子さんは、被爆3世です。

2011年3月11日の東日本大震災、そして原発事故が起こったことで、瑠衣子さんに大きな衝撃が走ります。「原爆と同じ放射能が、福島でもれた?」

―放射能の恐ろしさを1番わかっていたのは、わたしたち日本人のはずなのに……。
―核の平和利用とはなんなのか?

福島と青森に旅に出た瑠衣子さん。福島県浪江町で人のいない避難区域を歩き、仮設住宅で避難者のおばあちゃんたちの話を聞いていきます。避難者の悲しみの淵の言葉に、瑠衣子さんも思わず涙がこぼれます。

青森県大間町では、漁師町の住民たちが大間原発の建設に反対した歴史、そして今も建設予定地で自給自足の生活をしている「あさこはうす」の小笠原厚子さんを訪ねます。

福島でも青森でも、原子力発電をめぐってたくさんの人の人生が翻弄され、現在も苦しめている事実があるのです。

 

©2015Ⓒソネットエンタテインメント/AMATELAS/

©2015ソネットエンタテインメント/AMATELAS/

 

「長崎に生まれ育ち、放射能によって苦しんだ祖母たち被爆者の方に関わりながらも、原発についてよく知らずにきてしまったわたしは、これからどうするのか」-そういうふうに自分へ問いかけます。

映画のなかで遠くをみる瑠衣子さんの視線が気になります。「彼女はなにを感じ考えているのか」と、わたしは考えましたが、そのうち「自分はどう感じ考えるのだろう」と変化していきました。

映画の終盤、第一期原子力留学生としてアメリカで勉強し、日本で原子力の平和利用を進めてきた“日本の原子力の父”井原義徳さんと話し合うシーンで、瑠衣子さんは答えを出しました。原子力の有効な平和利用を求めて奔走してきた老人を前に、原発のない未来を選んだ若者。
この映画のなかで最も印象的なシーンです。

瑠衣子さんの問いは、彼女個人の環境に由来しているもの。けれども、わたしたちも彼女の問いに似たものを持っているのでは?なぜなら広島や長崎に原爆が落とされたこと、その被爆者たちの痛みを共有し、多くの日本人は「核兵器は許されない」と思っているからです。

「いつどこで、日本は原発を生活のなかにとりこんでしまったのか」
この映画をみてぜひ再考してほしいと思うのです。

そしてそれは、原子力発電所が建てられきた時代を生きてきた人だけでなく、「これからの選択」をたくさんしなければいけない若い世代も、自身に問いかけるべきだと思います。
だからこそこの映画は、瑠衣子さんが主人公なのです。

瑠衣子さんのように、過去に何が起こって人びとはどうなったのかを自分の心に深く捉えて、これからの未来のさまざまなことを選んでいこう。
映画のメッセージはここにあるのかもしれません。【やまだせいが】

 

     

■ 「アトムとピース」ウェブサイト
シアター・イメージ・フォーラムにて公開中
監督:新田義貞/エグゼクティブプロデューサー:小西晴子/2015年/ドキュメンタリー/94分/製作:ソネットエンタテインメント