ウェブマガジン・のたる
書評:『女子力で読み解く基地神話』
Categories: 文化・アート

 

著者:三上智恵/島洋子 出版社7:かもがわ出版 発行:2016年9月1日価格:1600円+税

著者:三上智恵/島洋子
出版社:かもがわ出版
発行:2016年9月1日 価格:1600円+税

映画「戦場ぬ止(とぅどぅ)み」の監督・三上智恵さんと、沖縄のローカル紙である琉球新報の政治部長・島洋子さんの対談本である『女子力で読み解く基地神話 在京メディアが伝えない沖縄問題の深層』。

流行語の「女子力」と表現しているが、米軍にいのちや生活を奪われ続けている沖縄の歴史・現在・辺野古や高江の座り込み、それらを報道することにずっと関わってきた2人の信念は、「女子力」という言葉にはあてはまらない気がする。

知的で感情的な2人のまっすぐな言葉は、彼女たちの生き方そのものであり、読み手を引き込む。それでいて2人の笑い声が聞こえてきそうな痛快さがあり、あっという間に読んでしまう。「基地神話」と呼ばれるものも、2人のつきつける事実によって解消される。しかし、それでも伝えきれないもどかしさや、報道陣として無力さを感じることが、赤裸裸に語られている。

この本のなかでとりわけショックを受けるのは、第1章だと思う。2016年4月28日に元海兵隊員によりレイプされ殺された女性の事件。こころを痛めながら、2人は話す。

「わたしたちが想起したのは21年前の事件です。1995年9月、米兵3人が小学生の少女を強姦するという悲惨な事件が起きました。……少女の人権をわたしたち大人は守れなかった。……今回犠牲になった女性は、20年前の事件のとき、まだ生まれたばかりだった。その若いいのちが犠牲になってしまった。胸がふさがる。あのとき誓った大人の責任をわたしたちは果たせていません。」(33ページ)

三上「……沖縄に住む大人たちだけの責任ではない。戦争をしないと言いながら、よその国の武力に守ってもらうことの矛盾には向き合わず、彼らの暴力を見て見ぬフリをしてきた国民全員が加害性について考えてみるべきです。『安全保障には犠牲が伴う』などという言説に疑問ももたずに、武力組織を支え、量産される罪を許し、予測できた犠牲を放置した。彼女を殺したのは元海兵隊の、こころを病んだ兵士かもしれない。しかし彼女を殺させたのは無力なわたしであり、何もしなかったあなただ、とわたしは言っているんです」(38ページ)

この問いかけを読み流すことはできない。

性犯罪と軍隊の関係性についても同じ章で書かれているのだが、「軍隊という極限の暴力措置にあまりにも近くで暮らさざるをえない沖縄」(34ページ・島さん)だからこそ起きてしまうのだ。それ自体を変えなくては、女性が強姦され殺されるという卑劣な事件はなくならいことを、わたしたちは深く認識しなければならない。

シンプルなことなのに、女性への性暴力を揶揄する多くの言い訳によって問題のすりかえが行われる。責任を果たすために行動するのは気づいたときだと教えられる、強烈なメッセ―ジである。

第4章では、大手メディアがつくってきた“沖縄基地神話”を取り上げている。最近では東京MXテレビの番組「ニュース女子」が放送したような、沖縄できちんと取材もせずに、政府の意向にそったかたちで報道をしてきた大手メディア。彼らが沖縄メディアに対して「偏見報道だ」と言ってくることはよくあるようで、そのときに島さんが切り返した言葉が以下である。

「……『沖縄は偏っているんじゃないか』って言われたら、『沖縄は偏っていますよ』って言ってますよ。だって、全国の米軍基地の74.48パーセントもの負担をさせておいて、それによる被害・事件が頻発しても、一方的な地位協定は60年間、一回も変えられていない。それを偏っていると言わずして何が偏っているのだ、ということです。つまり、沖縄の新聞が偏っているのではなくて、沖縄が置かれている状況そのものが偏っているんです」(154ページ)

構造そのものを軸に据えた、反論しようもない回答である。その記者が考えをあらためるきっかけにしてくれればと思う。

この章には、事実を知らないひとを“神話”から抜け出させるために、同じメディアの世界に身を置く三上さんと島さんの奮闘記が満載である。読み手としては、あまりのメディアの記者たちの無知・無関心にショックをかくせなかった。

しかし逆にいえば、米軍基地だけでなく、社会に果たすべきメディアの役割を2人は日々体現し、提起していることが理解できる。

他にも、オール沖縄や辺野古/高江のひとびとについて、宮古島/石垣島への自衛隊配備など、多くのテーマが話される。序章の2人の生い立ちの話しには、三上さんと島さんそれぞれのルーツが読みとれる貴重な話も多多。

三上さんと島さんは一見同じように強い女性にみえるが、体験も意見も表現もそれぞれ個性的なことがわかる。この本を読み終えると、すっかり2人のファンになってしまうのだ!

この対談は、2016年7月10日が投票日であった参議院選直後にされたものだと思われる。

必然的にそのあとから12月にかけてのめまぐるしい東村・高江での動きについては話されていない。三上さんのあとがきには「7月17日」とあるので、高江に他県からの機動隊が押し寄せてくることへの警戒をし始めたころの対談だったのだろう。

その三上さんのあとがきのタイトルに使われた「風(かじ)かたか」。

第1章で書かれているが、2016年6月19日におこなわれた沖縄県民大会のオープニングで古謝美佐子さんがうたった「童神」の3番の歌詞に出てくる。

雨風ぬ吹ちん 渡るくぬ浮世 風かたかなとてぃ 産子花咲かさ

(わたるこの浮世、強い雨風が吹きつけるだろうが、わたしが風よけになって、この子の花を咲かせてやりたい)

映画「標的の島」チラシ 時間軸としてはこの本の後に続いているようになっているので、この本を読むこととセットで観てほしい作品です!

映画「標的の島」チラシ
時間軸としてはこの本の後に続いているようになっているので、この本を読むこととセットで観てほしい作品です!

三上さんの最新作「標的の島 風(かじ)かたか』(3月11日から那覇・桜坂劇場、3月25日~ポレポレ東中野で上映スタート)のタイトルになっている。三上さんにとって「風かたか」が象徴的な言葉になっていることを考えると、あらためて沖縄の座り込みがなんのためなのか、なにを守ろうとしているのかが理解できる。

米軍・軍事・それらに付随するすべてから、いのちを守るためである。

いのちをつなぐために米軍基地の前に座り込み、国家権力の圧力にさらされながらも報道を諦めないひとたちがいる。

そのひとびとの強さを感じることができる対談本だ。

【山田星河(やまだせいが)】


■ 映画「標的の島 風(かじ)かたか」公式サイト