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監督インタビュー:ドキュメンタリー「海の彼方」黄インイクさん
Categories: 文化・アート

 

台湾から沖縄・八重山諸島に移住した人たちを、ある家族を通して史実を交えて描いたドキュメンタリー映画「海の彼方」の黄インイク監督のインタビューです(2017年7月、東京都内)。

Q:日本と台湾の過去の関係が、今の社会や玉木さん一家(映画の主人公)に影響を及ぼしていると感じる点がありますか?

黄胤毓/Huang Yin-Yu/コウ・インイク監督
台湾出身で現在は沖縄を拠点に台湾移民などをテーマにしたドキュメンタリー映画を製作している

黄インイク監督:私があまり好きじゃないのが、有名人や強い人物のドキュメンタリーなのですが、大きな背景の中に過ごしている小さい人物がいろいろ体験したことに、ドラマよりドラマがあるんですよ。私は、取材してそういう人を選んでいます。

その人たちの話を聞くと記憶や経験がとてもドラマチックで、そういうものが魅力的だと思っています。結局、大きい政治のことや言葉はわからないんです。学者などではないので、「ニニ八事件」とかいってもわからないんです。ただ実際しゃべっていると、「考えたらあれかあれか」というのですが、教科書との距離が結構あったんです。

でも、実際に生きている人たちの言葉でしゃべる。バアサン=私が撮っている人たちは、ほとんど字が読めないんです。日本語も、ひらがなが読めるくらいですが、持っている知恵や経験は、私にとっては貴重なことがたくさんあります。

その経験から、うしろのものがいろいろ見えると思います。しかも、もっと具体的に実際に体験したこと・言葉になっていないことー私たちは、あらすじや文章を書いたものがあるんですが、彼女たちには米軍支配時期とかニニ八事件・密入国のことは本になっていない状態でしゃべっている。自分が密入国したとか言わないんです。単純に、「船に乗ってこんなんだったんですよ」というしゃべり方が、私は好きなんです。

そういう見方から、後ろの政治の動き・大きい動きの経緯の中に自分の経験・自分なりの力で生きてきた人から、民族性というか人間の力などが見えるんです。そこが好きです。だから、そういう視点から描きたかったんです。

今台湾で、有名人がナレーションをするのが流行っているのですがそれを使わないで家族を選んだりとか、できれば歴史で語るのは家族の視点からというのが私が選んだ視点で、そこが重要だと思います。

みんなが慣れてきたのは、「わかりやすくちゃんと説明する」というのを、私は本ではなくて人で表すことを選びました。

台湾からの移民1世の玉木玉代さ (c) 2016 Moolin Films, Ltd.

Q:台湾では、学校で戦争のことをきちんと教えているのですか?

黄監督:教えていますよ。

宮沢:そうすると、今の子どもたちや学生も昔何があったかを知っているのですね?

黄監督:台湾の場合、私の世代からようやく台湾の歴史が入ったんです。その前は、中国の歴史だったんです。私は3分の2が中国・3分の1が台湾みたいな教育を受けたんです。その時に社会的な論争がありました。それは、「台湾の歴史は教科書にずる必要(価値)がない」という考え方だったんです。

でも、私の時代から「もっと台湾のことを知りたい」というようになり、台湾の歴史が本になったのは近年のことです。台湾は小さくて中国・日本は大きい文化で、「台湾文化ってなんだろう」というのがなかったんです。台湾文化が閉鎖された時代もありましたから。

台湾の歴史は原住民がいて、中国人と日本人が来た。その時くらいからは教えるのに半年くらいで終わってしまうんじゃないですか。ずっと台湾のみんなが心の中に語っている問題=自分の歴史・立場はなんですか?

だから今、なおさらみんなが小さい歴史があったことを発掘して、私もそうですけど映画にする動きを考えているんです。台湾の道・歩みはなんですか?主体性はなんですか?ということですね。

Q:沖縄は、台湾と社会状況や環境が似ているのでしょうか。また、そういった点でも沖縄に興味・関心がありますか?

黄監督:そうですね。台湾と沖縄は昔から交流があって、裏の歴史もありました。特に、米軍統治時代に台湾との密貿易が予想以上に多かったんです。それで、沖縄との関係はいろいろ考えがあります。

(c) 2016 Moolin Films, Ltd.

Q:アイデンティティーについてです。例えば「日本人より日本人らしい台湾人になる(なろうとした)」とか、(台湾でクニの言葉がわからなかった時に)「自分の国の言葉が通じないということを実感した」というセリフがありましたが、自分は何なのだろう・何人なんだろうということなど、いろいろな立場や環境を持った人には難しい問題だと思います。監督は、どのようにお考えですか?

黄監督:映画の中には違う世代(3世代)がいるのですが、1番難しかったのは、多分2世だと思います。私が聞いた話では、そういう人たちが成長した4~50年前の日本社会では、厳しかったはずです。

会社や結婚の話とか就職・教育(台湾人は日本の大学に行けない)というような話があって、自分が選ぶのではなくて「どうやって社会の中で生きていけるか」その方法しかない・日本人になるしかない・帰化するしかないのか?と考えています。

私が聞いた話では、台湾語を話したくなくてみんなが一生懸命日本語=本土の人の訛りを真似してそういうような人になっているんです。沖縄の人の言葉よりは、日本人という勉強をしているんです。

彼らが今の時代(子育して5~60歳代)になって繰り返し考えたら、残念な部分がある形になっているんです。もっと両親と台湾語を話したら良かったとか、もっと勉強したらよかったという話を聴きました。それが遅いというよりは、今から始まるということがあります。

ある人たちが、母親が亡くなる前に最後に台湾に連れて行った中でろいろ複雑なことを考えました。その家族=7人きょうだいの中で長女だけが少し台湾語をしゃべって、台湾の親戚の1人が少し日本語をしゃべれて、その後家族が毎年台湾を旅行しているんです。

とても素敵だと思います。新しい展開=1世が亡くなる前後に、ほぼそういうこと(行き来)について考えている。家族がお母さんと一緒に最後に行った時に、「妹はもうボケていてわからないから来なくて良い」と言われたけれども、その妹はお姉さんを見た途端にわかったそうです。

その時の奇跡の1枚の写真がありました。その前に十何年も行っていなかったのに、母親が亡くなった後に、そこで終わりではなくて今は毎年行っている。家族がその写真を見せて、「とても良い、貴重な記憶ですよね。今年も来月行くんですよ」って、改めての展開があるんですね。

3世も、別の友だちを連れて台湾に行っているんです。日本人としてで言葉もしゃべれないんだけれど、親しい感じで行っているんです。玉木家も台湾に行くと行ったら、「きっとその家族も続けて行くようになるでしょう」と言っていました。私は、それを期待して(玉木家に)密着したんです。

現在の玉木一家 (c) 2016 Moolin Films, Ltd.

「海の彼方」で家族の話と決めたのは、ぞの家族から聞いた話がきっかけでした。時代の流れで、長年言えなかったこと・忘れたことをおばあさんが80歳代の時に2世たちが考えて一緒に進んでいるというパターンが多いです。

宮沢:長い間会わなかった親戚が再会した時に、一瞬にして時(とき)や間が埋まるんでしょうね。お互いに考えていたこともあるでしょうし。

黄監督:そうですね。他の家族のことを聞いて「わぁ、ステキ」ということもあるし、台湾に墓があるんだからと、毎年墓参りをしている家族もいます。それも、(台湾に行く)きっかけですね。そういう交流になれば面白いと、思っています。

映画の後半に、文化伝承の話が入っているのですが、「どうやって続けて行くのか」という質問をしたんです。台湾の文化を守るというよりは、自分のアイデンティティをどうやって伝えるかという話です。その中で出てきた話で、本当にここで終わるか何か続くか。家族によって違う雰囲気ややり方があるのですが、自分なりの道があるんですね。玉木家には玉木家の道があるんです。

宮沢:映画の中には料理のことが出てきましたが、それも文化伝承の1つですね。でも、最近の日本では、家の味などが薄れている気がします。

黄監督:そうですね、意識しないと続いていかないですね。

Q:この映画を通じて、過去の歴史が伝わることを期待しているのですが。

黄監督:そういう反響があれば、ありがたいと思います。作品は3部作なのですが、「海の彼方」(第1作)だけでいえば単純で、日本でも台湾でも彼たち(台湾から八重山への移民)の存在を広げたいだけです。

日本の内地に住んでいる、1970年代の沖縄復帰の時にたくさんの2世たちが日本に移住してきたんです。その人たちの立場とかコンプレックスが、結構強かったと思います。台湾・沖縄(日本)にいる2世たち150人くらいを取材したんですが、日本にいる2世の葛藤が強かったんです。日本の社会に入りたいというような葛藤を見て、この作品が沖縄からのテーマですけれども、日本でちゃんと見せて知ってもらえて、その人たちや子孫の立場や状況が認識されて、ある程度彼らの生活・くらしや考え方が変わるようにと祈っています。

2世たち・母親たちが自分で立場や葛藤を解消できていない状態だったら、次の世代はすっかり日本人になってしまうんです。慎吾(1世の玉木玉代さんの孫)もそうだし今の沖縄台湾系(の人たち)は知っているけれども、昔のいじめなどはもう終わっているので。地元の人たちとの関係もある程度解消されたと思うんですね。

でも、日本にいる人たちのほとんどは、沖縄のことも台湾のこともあってなおさら何も言えなくなっているんです。沖縄出身というくらいで、過去の復帰前のことは完全に封鎖して、新しい人生で日本にいるという人が多いです。そういう人たちの状況を見れば、隠れているというか厳しい状況があると思うので、1つのテーマが広がらないと彼らの状況がどれくらい認識されるかわからないけれども、少しでも彼らに良い力になればと思っています。

【聞き手・監督写真=宮沢さかえ】

■ 「海の彼方」公式サイト

8月12日よりポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー