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映画紹介&監督・プロデューサーインタビューより:「被ばく牛と生きる-Nuclear Cattle-」
Categories: 文化・アート

 

9月中旬、渋谷区にてドキュメンタリー映画「被ばく牛と生きる」の監督・プロデューサーの両人から話を聞く機会に恵まれた。

 

松原保監督(右)と榛葉健プロデューサー 撮影=宮沢さかえ

 

温かい笑顔で私を迎えてくださった松原保監督は、ブータンなど国際的な映像制作にも携わっている。「被ばく牛と生きる」は監督として挑んだ初の長編映画となる。そして、本作のプロデューサーは「with…若き女性美術作家の生涯」などを手掛けてきた榛葉健氏であるが、「被ばくと牛と生きる」は、その名プロデューサーをして「彼だけにできる業だ」と言わしめた。

 

(C)2017 Power-I, Inc.

福島県相馬市に伝わる「相馬野馬追」は、東日本大震災によって当時開催が危ぶまれていた。その取材のため福島を訪れた松原監督は、現地で「被ばく牛」の問題に直面する。福島第一原発付近の牧場にいた牛はひどく放射能に汚染され、到底食糧にはできない状態であった。国はこれらの牛に対して殺処分を求めるという方針をとった。ところが農家は、経済価値がなくなった牛を育て続けていたのである。もちろん、餌代をはじめ諸々の費用は自費でだ。

そうした現実を目の当たりにして以来5年間、牛の命を黙もくと育む農家の姿を撮影してきた。牛を育て続けることこそ希望だと語る農家。かつては原発を推進したがそれを悔い、今は被ばく牛とともに生きる元町議。その他、未曽有の放射能汚染と無造作に廃棄されようとする命の間に立ちはだかり、命の大切さを体現する一群の無名の人びと。

 

松原保監督 撮影=宮沢さかえ

 

松原監督はその人びとの思いにひたすら傾聴し、その様子を克明に映像に収めてきた。

その人びとは真摯に命に向き合い、現代の「普通」に対して重大な問いを投げかけている。震災が起きる前、彼らは「普通」の農家だった。牛を育て、売り「利益」を上げることで生計を立てて生きてきた。そういう風に私たちは思っていた。しかしそうではなかった。

被ばくにより、牛は「利益」になることがなくなったにも拘わらず、彼らはその後も牛を育て続けたのだ。経済学の常識では、回収できる見込みのない投資はされない。しかし彼らは、「投資」をし続けている。牛とともに生き続ける決意とその行動は持続可能で真に豊かな未来への「投資」なのだ。

 

(C)2017 Power-I, Inc.

 

命を経済的な価値で序列化することは、いつのまにか現代のスタンダードになってしまった。こうした風潮が極限にまで高まる中で、相模原市では19人もの障がい者の命が奪われた。

障がい者の命は無価値であるのか。「能力のない」人間の命はコマとなり、過労死して潰えても仕方がないのか。放射性廃棄物によって子々孫々と命が危機にさらされることを意に介さないことは「現実的」なのか。

この映画の中の、被ばく牛に関わる人びとの姿は、現代において持続可能な思考様式・行動様式を浮き彫りにする。

この映画は、命の大切さを忘れかけた現代社会の危険性とそこから立ち直る希望が、鮮やかに照らし出された作品である。何が狂気で何が正気なのか、私たちに語りかける必見の映画である。

【古賀勇人】

 

    

 

■ 「被ばく牛と生きる」公式ウェブサイト
2017年/104分/配給:太秦株式会社
10月28日より、ポレポレ東中野ほかロードショー!
11月4日より、フォーラム福島にて1週間限定 上映決定