ウェブマガジン・のたる
映画「迷宮カフェ」試写会後トーク~失うより与えられる命を伝えたい

 

病で娘を失った経験者が企画した映画「迷宮カフェ」の、一般試写会後に行われたトークのもようです。

                                                                                                                  【取材=宮沢さかえ】

 

映画「迷宮カフェ」フォトセッション

 

橋口:映画「迷宮カフェ」ですが、実は僕ら映画のプロが作り始めたのではなくて、映画経験全くゼロの黒岩さんが、気持ち・思いだけでスタートさせて完成まで至りました。企画を立ち上げた思いを含めて、どのように創りたいと思ったか聞きたいと思います。

黒岩由香さん=企画者

黒岩由香さん=企画者

黒岩:映画を創ろうと思ったきっかけは、2008年に当時14歳の娘を病気で亡くしていて、その後いろんなことを考えている時期があったんですが何らかの形で娘が生きていたという証を残したいという思いがずっとありました。

子を失った親として、自責の念・もっと何かしてあげられたんじゃないかと思うこともいろいろあって、思いを巡らせる内に広くたくさんの方に、命の尊さとか生きるということを、もう1度考えるきっかけづくりとして形にして残せればと企画を立ち上げました。

作品には、骨髄移植がテーマとして取り上げられているんですが、それは1つの題材で、大きな意味で言えば「生きる」ということを伝えたいと思うんです。私は、ただ1個のボールを投げたに過ぎないのですが、そのボールを受け取ってくださった方がたくさん居ました。特に、橋口プロデューサー・脚本家・監督など、本当にたくさんの方が製作費や力を貸してくれたりして、私が投げたボールを次から次へと渡してくださって、最終的に1つの作品になってみなさんに観ていただくことができました。

橋口:角田さんも、今回の作品に対して特別な思いがあって出演を決めたと聞いています。そのことも含めてお願いします。

角田信明さん=格闘家。松浦役

角田信明さん=格闘家。松浦役

角田:3年前に、ハリウッドのヒュー・ジャックマンが主演する「ウルバリン:SAMURAI」という映画のオーディションにたまたま受かって、「ハリウッドデビューだ」と喜び勇んで向こうに行ったのが、一口で言えばとんでもない目に遭いました。頭を打って帰ってきて、「やっぱりハリウッドじゃないよね。この日本で素晴らしい映画と出会えたら、役者として勝負したいね」と、ちょうど話していた時期にこの話をいただきました。

ストーリー・映画の中身を聞いたところ、非常に命の大切さをテーマにしたものだということで、ふと私が気がついたのは、僕がK-1という格闘技の世界で一緒に戦っていた、アンディ・フグ(スイス)選手、マイク・レオナルド(南アフリカ)選手は、1996年のK-1グランプリの決勝戦を戦った本当に強い男たちだったんですが、アンディは急性前骨髄球性白血病で34歳の若さでこの世を去りました。マイクは、その後を追うように、残念ながら自らの命を絶つということがありました。

今回の映画のテーマと、あまりにも重なるものですから、これはもう天国にいる彼らに導かれてこの映画と出会ったんじゃないかなと思い、僕が背負った物だという認識で、仕事という位置づけではなくて使命‐松浦という人間を演じることも、彼らがやり残したことの使命を引き継いだんだという気持ちでやらせていただきました。

今まで僕は、格闘技出身でありながら映画やドラマをやらせていただいたんですけれども、ほとんどが演技をしなくてもそのままでできるような役が多かったんです。今回の役は、初めて地・素の角田信明から松浦というキャラクターに変身していかなければいけないという意味で、俳優・角田信明としての真価を問われるものすごくハードルが高い映画でした。ここで、ずい分たくさんの経験を積ませていただいたことも、感謝しています。

橋口一成さん=プロデューサー

橋口一成さん=プロデューサー

橋口:事前に監督と演技・芝居作りをいろいろ話し合って、観覧車の中での自己紹介のような場面で、どういう芝居をするのか本読みでいろいろやったかと思うんですけれども。

角田:(松浦の台詞のように)監督から、「映画のスクリーンの額の中で芝居をしろ。あまり大きいと、観るに堪えない」と言われてちょっとへこみました。あそこから、全てが始まったと思っています。

あとは、気が弱いキャラクターなのでどうしてもトーンを落とさなければいけないんですけれど、落とすと映画を観ているお客さんには聞き取りにくくなってしまう。そこをどうするかということを、帆根川 廣監督に技の指南をしてもらいました。「台詞を全部、母音で発音してください。そうすると、落としたトーンでの台詞がはっきり聞こえるようになりますよ」と教えてもらいました。それは、今撮っているドラマでもずっと活かしてやっています。

橋口:今回、角田さんとは現場でも2日くらい会ったと聞いていますが、角田さんの印象や思い出がありましたら聞かせてください。

黒岩:まず私は、角田さんが松浦役を受けていただいたと聞いた時から、日日角田さんのブログをチェックしていました。この役のために、ずっと体作りをしていて、ボディビルダーがバーッとスクリーンの前面に並ぶシーンがあるのですが、そこに並んでいるのは日本のトップの選手たちばかりなんです。その中に角田さんが入った時に、決して引けを取らないようにと綿密なスケジュールを立てて、体作りから入ったということを読んでいて、プロとして素晴らしいということが会う前に受けた印象でした。

端から遠巻きに見ていても、いつも角田さんの周りではキャストやアシスタントも和やかに過ごしていました。撮影で一般の人が来たりしても、いろいろな年齢層の人から支持されているのがわかりました。私も、ちょっと話をするだけでも熱いハートが伝わってくる所があって、松浦役を角田さんに演じてもらってうれしかったと思います。

 

(c)2015/ワンワークス

(c)2015/ワンワークス

 

橋口:ボディビル大会のワンシーンの話が出ましたが、角田さんが撮影に来た時に、車から現場までものの2分なんですけれど、歩けないような状態で入ってきたんです。実は、その時ボディビルの役柄に徹するために減量をしたんですよね?その辺のすごい気迫を感じました。

角田:スクリーンはウソが出てしまうので、日本の有名なトップボディビルダーが集まるということで、炭水化物と糖質カットをして2週間で7キログラム減量しました。それで低血糖になってフラフラになりながら行って、とりあえずお弁当を食べて糖質・エネルギーを入れて撮影できました。

でも、それなりにこだわっただけのものができたのは、良かったなと思っています。それは、ボディビルのシーンだけではないんです。僕は、芝居の勉強をしたわけでもないしなんの基礎もありませんが、役者として勝負をするとしたら、格闘技の世界は取り直しがききません。1発勝負の中に、演技を超えたリアルな物をいかに見せられるかというところで勝負するしかないと思っていましたので、それができて良かったと思っています。

(c)2015/ワンワークス

(c)2015/ワンワークス

 

橋口:今回の作品は、群馬と新潟の瀬波海岸を中心に撮影しました。東京はちょっとだけしかないのですが、群馬のロケ地特にカフェの場所が瀬波海岸=黒岩さんに特別な思いがある場所で撮影を行いました。その辺の事情や気持ちをお聴きしたいです。

黒岩:群馬の撮影では、カフェもそうですが回想シーンに出てくる堤防は、監督もたまたまあそこで撮りたいという意向があったのですが、あの場所は娘が入院した病院がちょっと小高い丘の上にあって、そこを下って来てすぐの場所にあるんです。心の中にあった場所で、ものすごく思い入れがある場所です。

群馬ロケが多いのは監督も私も群馬在住ということと、群馬はロケにたくさん使われているんですが、どこにも群馬という設定で出て来ないんです。それがすごく残念で。あとは、ここにいるみなさんが共通して持っているのではないかと思うのですが、群馬は全国の中で認知度が低くて、どこにある県がわからないと良く聞くんです。ぜひ、群馬で撮った群馬を舞台にした映画を創りたいという意地もあって、群馬にある山奥のカフェが冒頭の台詞に出ています。

それが全体的な理由ではないのですが、まず群馬のいろんな美しい場面も映画に取り込みたいということと、新潟=ラストの海のシーンですが、娘が亡くなる5日前に家族で最後に訪れた場所なんです。昔2回くらい家族で行った場所です。娘の病気の状態が思わしくなくて、行く年の初めに余命3カ月という宣告をされて、娘には伝えられなかったのですが、思い出づくりに行こうかなと思った時に選んだのが新潟・瀬波の海です。そこはぜひラストシーンに使いたいというのは、企画を立ち上げた時に1番最初に条件として監督に伝えてやったことです。

そういった意味で、新潟のラストシーンが決して哀しい結末ではなく、新たなスタートを切る場所として使ってほしいというのが瀬波を選んだ1番大きな理由です。この映画を創る1番の原動力になったのかなと思います。

橋口:最後のシーンがそれだけの思いが入っているということで、もう1度改めて映画を観ていただきたいと思います。角田さんも、今回の映画の中で特に思い出のあるロケ地でのエピソードとか、ムードメーカーとしてみなさんを焼肉屋に連れて行ってくれたりしましたね。

映画「迷宮カフェ」試写会後トーク角田:群馬は、僕が現役時代にお世話になっている温泉旅館があったので、試合前に必ず2週間くらいキャンプを張って、1番苦しい練習をして試合に臨んだという縁の場所です。新潟・越後は今でも自分が上杉謙信=武士の生まれ変わりだと思っていますので、やはり縁のある場所だと思っています。

僕は、縁(えにし)=ご縁・因果というものをとても感じやすくて大切にしているので、全てのものが、コロコロ・コロコロと転がって繋がって1つのものになっていくものを感じながら、若い役者さんたちもこれを機にいろいろと経験を積んで大きくなっていってもらいたいと思うし、大きくなった時に「迷宮カフェ」という映画がもう1度光を浴びることもあるだろうと思います。

橋口:最近、自殺や殺人事件が相次いだり、「自殺」とかるがるしく言ったりなど、命の問題について考えさせられることが多いと思います。そういう中で、どちらかと言えば救われる側の難病ものの映画が多いんですけれども、人を救うドナー側の映画として、今回作りました。他人に思いを寄せるということが、本当に少なくなったなぁと思っています。そんな思いの中で感じ取って作らせていただきました。

お2人は、今回の作品の思い・楽しみ方・どんな風に観てもらいたいですか?

黒岩:この作品で1番伝えたいことは、命を失うことを通して命の大切さを伝えるのではなくて、逆に与えることによって自分自身もまた救われたことがあるというプラスに働く力を伝えたいです。哀しい物は、その時は感動して涙を流すんですが、そういったものにはしたくないという私の強い要望があります。

あとは、登場するキャラクターが3人ともぶっ飛んでいるというか、「こんな人絶対いないよな」というキャラクターで、あくまでも世間一般のすごく偏った人間なんですが、ちょっと変えると近い方もいると思います。そういう、大勢の中の象徴的な存在として、カフェの常連客が登場しています。その3人が、心の中の迷いや自分に対しての失望を少しずつ心の変化があり、そこからスタートを切るという内容になっていますので、若い方に観ていただきたいという思いがあります。

角田:筋肉は、負荷をかけてかけてかけて破壊する作業なんですね。そこに、栄養と休息を与えることによって、回復した時に元よりも少しだけ大きくなる。この繰り返しで大きくなっていくんです。人間の精神も、常に負荷を与えてその負荷に打ち勝った時に、人として成長していくわけで、その負荷に負けたときに自らの命を絶つという、最も残念な方法を選ぶんじゃないかなと思ったりするんです。

だから、僕もトレーニングを続けていて思うのは、「敵はリングの上で向かい合っている相手じゃないんだ。その前に、自分の中に潜んでいる弱さという扉があって、それを1つ開けていく時に達成感と同時に、また次の扉が見える。扉を開けていく快感を知った時に、映画の中の松浦(角田さんの役)と同じように絶望感が希望に変わったりする。そういうものを、今回の映画の中の僕の立ち位置で同じ周波数でビーンと感じて、自分の中の弱さに負けそうになっていた人たちが、もう1回そこから超回復して人生の意味を見出してくれるようなきっかけになればと思います。

格闘技をやっている人間なのに役者の仕事をいただいたり、歌を歌う仕事をいただいたりして、「何でそんなにいろいろなことができるんですか?」と聞かれるんですが、私にもわかりません。でも多分、そういうことを通じて世の中に何かを伝えて行かないといけない役目があるんじゃないでしょうか。いただいたことなんで、僕がやっているんじゃなくて何かの力でやらされていると思っています。

今回も、アンディ・フグとマイク・ベルナルドの共に戦った2人は、今この世に居ません。この2人に観てほしかったなと思います。1人でも多くの人にこの映画を観て、命の大切さについてもう1度考えてもらいたいなと思います。

人間、必ずいつかは死ぬんですから、その死をどうやって迎えるかはいかに日日を生きるか-武士道の極意です。死を迎える時に、穏やかになってもらえるような映画になっていると思っています。

 

     

 

■ 映画「迷宮カフェ」公式ウェブサイト

角川シネマ新宿ほか大ヒット公開中