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著者インタビュー『男おひとりさま術』中澤まゆみさん〔前編〕

いつごろから“おひとりさま”が注目されたか

――上野千鶴子さんの『おひとりさまの老後』(法研)は大反響を呼びました。その後、中澤さんが『おひとりさまの法律』(同)を書かれましたが、この2冊は女性の1人ぐらしに関しての本ですね。今年に入って上野さんが『男おひとりさま道』を、中澤さんが『男おひとりさま術』を出版されました。男性の1人ぐらし(元々そうであった人も離婚・死別の人も)が増え始め、フォロー等が必要になってきたのはいつごろからでしょうか。

中澤まゆみさん

中澤まゆみさん
ノンフィクションライター
雑誌編集者を経てフリーランスに。医療、福祉、介護関係の取材、単行本の構成・編集も数多く手がける
撮影=塩田涼

中澤:「高齢化社会」(65歳以上の人口比が7%以上)と言われるようになってきたのは、1970年です。その次に「高齢社会」(同14%以上)が出て来ますが、これが1994年です。この24年間に、高齢化から高齢社会に走りました。フランスが115年かかって歩んだ道を日本は24年で進んだわけです。

 それで2007年からは、「超高齢化社会」となりました。人口の21%以上が65歳以上ということです。日本が世界で1番最初に「超高齢化社会」に突入しました。この2007年は、団塊の世代が大量に定年になってくる年でした。そのようなことが重なって、高齢化と1人暮らしが多くなっています。

  国勢調査によると、1980年(昭和55年)には65歳以上の単身者(おひとりさま)は7.5%しかいませんでした。それが、1995年(平成7年)になると、18%になります。2005年(平成17年)では30%です。2030年には、4人に1人が高齢者のひとりぐらしになると言われています。

 このように、高齢者の数が増えてくるのと同時におひとりさまの数も増えて、2007年問題なども絡まり合って、1人の老後をどうやって暮らしていったらいいのかということを、特に女性の方が先に気になって来たのだと思います。というのは、女性の方が長生きしますので。今でも65歳以上の女性の5人に1人がおひとりさまなので、こういう数字を突きつけられると、1人で死ぬことに現実味を帯びて来たということがあると思います。

――元々核家族化が進んでいて、子どもが巣立って行ったら夫婦だけになり、そのどちらかが亡くなったら1人になるという構造になっていたということでしょうか。

 中澤:その核家族化なんですが、もう子どもには頼れないと友人も言います。そういう時代ではないと。夫婦2人でいても子どもには頼れないので、別れて暮らしていくか、あるいは夫が亡くなれば1人になっていくだろうということですね。選ぶと選ばないに関わらず、1人になっていく社会の流れが背景にあるのだと思います。

――「おひとりさま」男性版出版への希望があったと伺っていますが、中澤さんご自身がこのような内容の本が必要では?とお感じになったことがありますか?

中澤まゆみさん  中澤:私はずっと男社会(出版界)で行動してきましたので、若いころから男性の行動を見ていて、定年になったらどうやっていくんだろうと思っていました。私は結婚していませんが、企業社会で働いている男たちの弱さ、脆さみたいなものを何となく知っていたということがあるんじゃないかと思います。

 もう1つは、男の人が元気がないってことかな。みんな気がついてきているのではないかと思うのですが、電車に乗っていると、オジサンたちが暗い。キレたりしている。みたいなことがこの10年急に増えて来ましたよね。いろいろな要素があるんですが、2007年問題に向けて、定年退職したあとの男の人の生き方を応援できるような本が作れないかなあと2005年くらいに思っていました。

 その時点ですでに男の人が書いたり、リサーチの本は出ていたのですが、私は医者と組んで仕事をしたいと思っていました。その背景にあったのは、私が友人の介護をすることになりまして、医療のことや介護のことが現実味を帯びてきたということがありました。そのようなことも含めながら、男の老後と言いながら私たちの老後について考えてみたいなとは思っていたんです。

 それで、その本は出したのですが、その頃にこの本のお話がありまして、上野さんの本がベストセラーになり、編集者が実戦編を作りたいと人を探していた時に私に声がかかったのが『おひとりさま法律』ができたきっかけでした。おかげさまでそこそこ売れまして、友人たちに読んでもらったところ、男の友人から男版を作ってくれないかなあという話が結構あったんです。「こういうのが必要なのは男だよね」などと女の友だちも言ったりしていたので、私も段々その気になってきて、ちょうど上野さんの『男おひとりさま』が出た後に編集に実践編をやらせてもらえないかなと言ったんです。

 女性と男性の感覚に違いがある?

――女性が男性のことを書くことについて抵抗はありませんでしたか?また、男女で違いがあるのでしょうか。

中澤まゆみさん 中澤:女性が男の生き方に口を出すことについて、「お前なんかに言われたかないよ」という「のたる」の書評を書かれた人のような拒否反応って男の人の方が強いんですよね。特に男の人の場合というのは、老後のことなんていうのは見たくない、聞きたくない考えたくないという人が多いですよね。考えるときっと暗澹としたりすると思うんだけど。

 それから、特に団塊の世代くらいからは、料理好きの人もボチボチ現れて、「女房よりオレのほうがうまいぞ」とか、「家の料理は僕が全部やっているんだ」とか豪語する人も出てきたんですけれど、例えば私の父親の世代は全く料理をしないです。それで、「オレの飯は」と言って、母親が倒れている時にも言う。

 そういう人は段々少なくなって来ているというものの、自分の連れ合いが亡くなったときに困る度合いは男のほうが絶対多いだろうと思います。

――でも、一方で男の人からこういう本を書いてほしいという声もあったわけですよね?

中澤:そうですね。だからどういう風にやろうかなと考えて、アンケートを取ろうかなと思いました。アンケートの取り方も、ネットで今取れますよね。でも、たしかにデータ数は取れるんですけど、顔が見えないところがあって。それで、ふと考えてみたら私は男の友だちがやたら多い人なんです。というのは、私が通っていた高校が女子が1割というほとんど男子校だったり、学生運動をやったり。仕事(編集)してからはほとんど男ですよね。

 それで、知り合いをたどれば100人くらい集まるかもしれない。「100人に聞きました」という番組もあるくらいだから、集めてみようかなと思って知り合いにアンケートを頼んだら、ドコドコドコドコ集まってきまして、書込みも多くて。こうやって聞けば意外と答えてくれるし、なかなか面白がってくれたんです。「こんな質問を受けたのは初めてだ」とか、「これを機会に自分の老後を考えるようになった」という書込みが結構ありまして、これはなんかいけそうみたいな感じがありましたね。

 私が言うよりも、ニーズを手がかりに持っていったほうが説得力があるに違いないと。男の人も、そういうデータの裏打ちがあると、「オメエなんかに言われたかねえや」と言わないだろうと。

 でも、なかなか手に取るのは難しいようですね。本屋でなかなか手にすることができないらしいです。ネットとかだと買えるかもしれないけれど、「実際に本屋で手に取るのは恥ずかしいよな。読んでみるとすごく面白いんだけれど」と言っていた男性もいました。知り合いの知り合いからはメールをいただいたのですが、「とっても良い本だけれど、男は本屋で手に取りにくいかもしれませんね」ということでした。

――今のお話を聞いて、これはひとりになった時の生き方と同じで、脱却しなくてはいけないことかなと思いました。

中澤:そうです。女性の方が素直です。男性は「あるべき自分」というものがすごく強いんだと思うんですね。ですから、弱みを見せたくないとか、弱味を持っている自分を知られたくないとか、甘えることがなかなかできないですね。頼ることもできなくて孤立していくようなことになります。

 この本にも書いたんですが、奥さんの友だちと付き合っている男性は圧倒的に少ないと思います。でも、それをクリアしていけば自分の領域も広がって行くのになと思います。

 今回「おひとりさま」の男性にいろいろ聞いたんですけれど、自分で付き合いを積極的に広げていくタイプとこもっちゃうタイプがいるんです。広げていけばどんどん広がっていくし、縮こまっていくとどんどん縮こまっていく。当たり前のことなんですけれども。女性は好奇心があっていろいろなところに飛び込んで行くんだけれども、男性の場合は場すらあまりないんじゃないかという気がするんです。もしあったとしても、「男の料理なんか行きたくないよ」とかね。

――本の中にも、「若い女性と一緒で楽しかった」という話が出ていましたね。

中澤:その方はとてもさばけた方で。海外暮らしも長かったので、自分の気持ちもオープンさがそういうところにつながったんだと思いますが、一歩を踏み出すのはなかなか難しいようですね。

 ――本を読んだ感想も聞いていらっしゃいますか?
『男おひとりさま術』

著者:中澤まゆみ出版社:法研価格:1300円+税発行日:2010年6月12日

中澤:役に立ったと言う人話は随分聞きましたし、2年前に読みたかった(すでに退職してしまったから)という人もいました。それから、のたるの感想のように、「あまり細かく書かれるとイヤだとか、自分で調べる」という人もいらっしゃいますね。

 人間の自立には4つあって、経済・精神・身体・生活的自立です。この4つがないと自立していけないと思うんですが、特に男性の場合はいつの時代でもそうなんでしょうけれども一番弱いのは、生活的自立と精神的自立だと思うんです。

 小さい時はおかあさん、結婚すると妻に頼っていくわけですね。会社ではバリバリやっているんだけれども、会社が終わったら実は精神的に自立していなかった人は結構多いのではないかと思うんです。

――仕事をしているときに気がつかないということなんでしょうか。

中澤:忙しすぎて考えているヒマがないのではないでしょうか。若い人はそうでもないかもしれませんが、団塊の世代までは、ほとんど会社人間でしょう?ホワイトカラーであろうとブルーカラーであろうと。で、家に帰ってもダラッとビールでも飲んでテレビを見て。そして、なんか相談されれば、「かあちゃんに聞いてよな」って。それでやってこられた時期が長かったんじゃないでしょうか。 (後編につづく)【インタビュー=編集長・みやざわさかえ/写真撮影=塩田涼】

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書評『男おひとりさま術』~企業に無能化された男のリハビリ・マニュアル

 『男おひとりさま術』の出版情報