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国民安保法制懇見解~安保関連法制定から1年を経て
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安保関連法が国会で成立してから丸1年となった2016年9月19日に、国民安保法制懇が見解を発表しました。今回は記者会見が行われませんでしたので、見解をそのまま掲載します。

なお、この見解は内閣にも執行したとの報告を受けています。画像は、同法制の内閣決議撤回を求める報告書を内閣に提出した際の記者会見の時のものです。【宮沢さかえ】

 

2014年9月29日の記者会見 撮影=宮沢さかえ

2014年9月29日の記者会見 撮影=宮沢さかえ

 

われわれ国民安保法制懇のメンバーは、集団的自衛権行使容認へと踏み出した 2014 年7月の政府見解、昨年5月に法案が提出され同年 9 月に制定された安全保障関連法等、憲法 9 条を正面から破壊しようとする安倍政権の行動を批判し、日本の安全保障および自衛隊の 活動に関する冷静で理性的な判断と対応を求めてきた。安全保障関連法の制定から1年が 経過したことを踏まえ、現時点でのわれわれの見解を示したい。

政府は、参議院選挙後の8月24日、安全保障関連法に基づく自衛隊活動の訓練を順次実 施すると発表した。選挙が終わるまではなりをひそめて安保法への目を逸らし、選挙が終 わってから安保法を運用に移したことになる。さらに、いかなる訓練を行うかについて、 具体的な説明はまったくない。予想される訓練の中には、PKO 活動に参加する国連や NGO の 職員らが武装集団等に襲われたとき、武器を携行して救援に赴く「駆けつけ警護」も含ま れる。

焦点となるのは、今後、南スーダン PKO に派遣される部隊に「駆けつけ警護」の任務が 付与されるか否かである。最近の南スーダンでは、首都ジュバで大規模な戦闘が行われる など、そもそも派遣要件である PKO 参加 5 原則、中でも紛争当事者間での停戦への合意が 満たされているか否かに疑いがある。そうした状況下で自衛隊に「駆けつけ警護」の任務 を与えるならば、自衛隊員の安全に従来を大きく上回るリスクをもたらすことが予想され る上、「駆けつけ警護」任務での武器使用が、憲法の禁止する武力の行使に踏み出すことに なりはしないか、再度の慎重な検討が必要となっている。

また、自衛隊の武器使用が不幸にも民間人の殺傷をもたらした場合に、それがいかなる 責任をもたらし、その責任を国と個々の自衛隊員がいかに分担することになるかがきわめ て不分明であることも懸念材料である。さらに、1999 年 8月12日付国連事務総長告示「国 連主導多国籍軍による国際人道法の遵守」はすでに、戦闘時において PKO 部隊が紛争の当 事者として限定的に交戦権を行使することを一般論として想定しており、PKO 活動に関する 内外の認識が大きく変容しつつあることも、自衛隊の任務遂行の是非に関して考慮すべき 要素であろう。

安保法はすでに本年 3月に施行されている。自衛隊の活動によって生じる現地での住民 感情の悪化や緊張の激化は、やがては国内外における国民の安全を脅かすリスクを含むの であるから、この法制の下でどのような活動を行い、どのようなリスク・効果が見込まれ るのかにつき、政府は国民に真摯に説明し理解を求める努力を行うべきであった。しかし ながら、政府から国民に対する真摯な説明は全くなされていない。

国民への説明を怠って選挙を戦い、選挙が終わりさえすればあたかも国民の白紙委任を 得たかのように周囲の声に耳を傾けることなく、強引にことを進める政府の姿勢、人がそ れぞれ自律的な判断主体であることを無視し、説明を通じて納得を求めることもしない政 府の姿勢、すべては選挙結果を目当てとして人心を操作するための術策であるかのように 振る舞う政府の態度は、普遍的価値を標榜するリベラル・デモクラシーの政府にはおよそ 似つかわしくない。それは、形ばかりの選挙を施行する非民主的な独裁国家に、むしろふ さわしい。

政府が集団的自衛権容認の根拠としてあげた憲法第13条にいう国民の生命、自由、幸福 追求の権利を真に守るのであれば、同条が定めるように、すべての国民を個人として尊重 することこそが、政府には求められるであろう。

以 上

国民安保法制懇
愛敬 浩二(名古屋大学教授)
青井 未帆(学習院大学教授)
伊勢崎賢治(東京外国語大学教授)
伊藤 真(弁護士)
大森 政輔(元内閣法制局長官)
小林 節(慶應義塾大学名誉教授)
長谷部恭男(早稲田大学教授)
樋口 陽一(東京大学名誉教授) 孫崎 享(元外務省国際情報局長)
柳澤 協二(元内閣官房副長官補)

■ 国民安保法制懇ウェブサイト